男性マネジャーが育児体験で大変身

【中野】最近、女性活躍には女性自身の意識改革が必要という論調から、「マネジメントを変えないと」というほうにシフトしてきた印象があります。堀江さんには、「ワーク&ライフ・インターン」を中高年男性にこそやってはと言っていたのですが実現したとか。

 

【堀江】「育ボスブートキャンプ」という、「ワーク&ライフ・インターン」のマネジャー版を実施しました。平日に3日連続で定時に仕事を切り上げ、共働き家庭で家事と子育てを経験する。参加者は若いマネジャーでしたが、その層が変わると、中高年男性も変わろうと思い始めます。経営者の行動は、メンバーの10人中9人が「変えてください」と迫ったときに変わっていくと感じています。

【中野】マネジャーが自宅に来て、子どものお迎えとかをやるわけですね。結構しびれますね、お互いに。

【堀江】一番の気づきは、「今まで子どものことを言われても、本当の意味では理解できていませんでした」というマネジャーが、子育てを体験したことでママ社員の状況がわかるようになり、「自分の働き方が子育て中の社員から見ると特殊な状況であるとわかった」「自分の当たり前を押し付けてはいけないと思った」と変わったこと。

 

【中野】パパでも週3回連続で5時に帰ることはしてなかったりしますよね。

【堀江】そうなんですよ。5時で退社した子育て中の社員にメールをぼんぼん飛ばしちゃったりするわけです。「結構重要メールなのに、全然返信をくれない」とイライラする。子どもといても返信する時間ぐらいあるだろうと思っていたら、実際に体験してみて、「ない」ということに気づく。あるいは、良かれと思って「いいよ、子どもがいるから大変なんでしょう」と言っていたりするんですよ。けれど、ママのほうは「やろうと思っていたのに」「あの時間はできないから、もっと前に確認してほしいと言ったのに」と思ってどんどん信頼がなくなっていく。

体験後に全員が「前よりマネジメントがうまくいくようになった」と答えています。見えないものが多すぎて、何が課題かわからなかったんですね。

【中野】マネジメント能力が上がっている、というのがいいですね。Chan geWAVEでやるダイバーシティマネジメント研修でも、部下役をやると学びが大きいという声が出ます。なかなか相手の立場に立ってみることってないんですよね。育休中のママがケースを考える、「育休MBA」を取材したことがありますが、ママ社員の側も経営側、管理職側の視点に立つことが重要だと思います。

中野円佳(なかの・まどか)
1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。14年、育休中に立命館大学大学院にて提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。15年より企業変革パートナーのChangeWAVEに参画。東京大学大学院に通うかたわら、発信・研究などを手掛ける。
堀江敦子(ほりえ・あつこ)
1984年生まれ。2007年日本女子大学社会福祉学科卒、楽天リサーチ入社。10年同社を退社し、スリールの事業を開始。国内外問わず多くの福祉現場での活動を実施。中学から始めたベビーシッターの子どもの数は100人を超える。14年、経済産業省「キャリア教育アワード」優秀賞を受賞。

中野円佳=構成 岡村隆広=撮影