難民に紛れるテロリスト? 真偽を冷静に判断する

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(C)UNHCR/M.Henley (Refugees and migrants queuing to board a train in Macedonia)マケドニアの駅で列車を乗り換える難民。手荷物一つで出国し、家族が安全に暮らせる安息の地を求め、移動する。

ヨーロッパ各国が、急増するシリア難民の受け入れ策に頭を悩ませている最中、2015年11月、パリで同時多発テロが起きてしまいました。仕掛けたのはイスラム原理主義を標榜する一派、一説には、難民に混ざってテロリストがパリに入ったとまことしやかに言われています。

確かに今年だけで、地中海を渡った難民は100万人近くに上ります。海を渡ればヨーロッパは陸続き。残念ながら、押し寄せる難民の中にテロリストが混ざっている危険性は十分にあります。

でも、入国管理がしっかりしていれば、テロリストを見抜くことはできるんです。どういうことかというと、難民審査では徹底したインタビューが行なわれるのですが、出身や現住所に至るまで調べられる中で、入国を審査する側がその国に精通していて、また、通訳がその人の訛りで出身地を見極めたりすることで、その人が嘘をついているかどうかを見抜くことができるんです。例えば、東京の人がいい加減な京都弁を使ったとしても、関西の人には見抜けるでしょう。それと同じです。

ただ、問題はあります。今、移動する難民があまりにも大量だということ。通常なら、しっかり引き締めている難民審査のプロセスが、簡便化せざるを得ない状況にある恐れはあるかもしれません。とはいえ、各国は厳しいまでの審査ノウハウを持っていますから、テロリストの水際対策に対して、必要以上に不安になることは無用です。

一方で、テロリストはとても才覚があり、どうやったら侵入できるか、ありとあらゆる手を使って挑んでいます。パリのテロでは難民申請をしたシリア人のパスポートがテロ現場に落ちていたという報道もありました。でも、決して、うのみにしてはいけません。むしろ巧妙に、シリア難民=テロリストだと恐怖を煽るための策略だったりしますから。そういった情報に無防備に乗ってしまったら、それこそテロリストたちの思う壺。なんの落ち度もないパリの方々が犠牲になられましたが、テロなどの暴力によって祖国を逃れているシリア難民こそがテロの一番の被害者といえます。

テロリストたちのコントロールには絶対に乗らない。世界の人々が、そういう意識でいないといけません。各国の政府やメディアの役割は大きいですね。

また、情報ソースとしてSNSも無視できません。伝達力は抜群です。そのため、流布されている情報の何が正しいのか、自分で正しく判断する能力が必要になってきます。

哀悼の意を表するためにFacebookのプロフィール写真にフランス国旗のトリコロールカラーをかぶせる動きがあり、これに関して大いに是非が語られました。確かにテロはフランスだけで起きているわけではありません。でも、Facebookというツールに絡んだこの一件で、難民問題の深刻さに気づき、意識するようになった人がいるかもしれません。私はこういったさまざまな意見が出ることは、むしろ健全だと思っています。難民問題も大いに語り合っていただきたい、と願っています。

第1回【急増する難民を支える――知る、伝える、アクションを起こす、私たちにできる3つのこと(1)】を読み逃した方はこちら。
http://woman.president.jp/articles/-/859
守屋由紀
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所 広報官。1962年東京都生まれ。父親の仕事の関係で、日本と海外(香港、メキシコ、アメリカ)を行き来しながら育つ。獨協大学法学部卒業後、住友商事に入社。5年後、結婚を機に退職してアンダーソン・毛利法律事務所へ。1996年、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に採用され、2007年より現職。

撮影=石井雄司