リーダーの判断の押し出しで、メンバーを萎縮させない
リーダー:全員で目標達成のためのアイデアを出そうと思うので、皆さんの考えを聞きたいと思います。どうですか、何かアイデアや気付いたことはありますか?【拡大質問/全体への問いかけ】
D:そうですね、いつも積極的に説明はしているのですが……
A、B、C:(沈黙)
リーダー:Aさんはどうですか? 何かありますか?【個別での問いかけ】
A:はい、気になったのは資料に書いてある内容と顧客が聞きたい内容が一致してないのではないか、ということです。資料はよく作りこんであるのですが、顧客から見たら分かりにくく、本当に知りたい情報がすぐにはつかめないのではないかと思います。
リーダー:Aさんありがとう。皆さん、この点についてはどうですか?【やりとりを促す】
C:確かに、そういう点があるかもしれません。基本情報を伝えることに注力し過ぎて、顧客が本当に知りたいと思っている情報を無視していたかもしれません。
D:確かに、対面で紹介しているときに、顧客にあまり内容が伝わっていない気がしていました。
B:なるほど、だとすると発表会も内容を考え直した方が良いですね。
今回の例では、リーダーの問いかけから始まって、最初はおとなしかったチームがだんだんとやりとりを増やしていく様子が分かります。先ほどと違い、後半ではCさんの発言を受けてBさんが発言をしており、創発的に互いの思考を刺激しあっているのが分かります。
リーダーが問いを作る際に注意すべきポイントは、自分の判断を前面に押し出さないことです。なぜなら、リーダーが回答を持っていることが伝わると、チームメンバーは委縮してしまうからです。やりとりを活発にしたいなら、リーダーはまず自分の思考パターンや価値観を認識し、それらを脇においてメンバーに考えさせ、話させることが必要です。それはつまり、リーダーが自分の「判断」や「正解」を脇に置いて問いを立てることです。
「チームを動かす質問力」として、前回「チームを活性化するには? リーダーが知っておくべき3つの心得(http://woman.president.jp/articles/-/775)」と今回紹介した内容は、いわばチーム活動の土台を整えるための問いかけでした。チームがチームとしての価値を生み出すためには、メンバー間の良好な関係や活発なやりとりに加えて、システム思考に基づく複合的な視点をチームで共有する必要があります。そしてそのためには、メンバーの注意を本当の問題に向ける必要があります。次回はこの「問題へ注意を向ける」ための問いかけについて紹介します。
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。