うまく行っているチームでは「成功のサイクル」が働いています。しかし、残念なことにリーダーがこのサイクルを失敗の方向に回転させてしまうこともあるのです。サイクルを正しい方向に回すために重要なのが「リーダーの質問」。そのポイントを、日本アクションラーニング協会代表の清宮普美代さんに教わります。

「成功の循環」モデルとは?

チームがうまく働いていると、結果を生み出し、その結果がまたチームを作るというサイクルが回っている状態になります。このサイクルをうまく説明しているのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)のダニエル・キム教授が示した「成功の循環」モデルです。

このモデルでは、結果、行動、思考、関係の質が相互に与える影響が説明されています。例えば、ある営業チームがとても良い結果を出しているとします。これを「結果の質」が高い、と呼びます。このとき、なぜ良い結果が出ているかと言えば個々のスタッフが的確な営業活動を行っており、同時にチーム内の連携プレーが成されているからです。これはチームの「行動の質」が高い、と表現できます。そして、そうした的確な営業活動を行うためには、市場動向をしっかりと見極め、戦略的な行動計画を立案した上でチームメンバーと共有しなければいけません。このとき、チームでは「思考の質」が高くなっていると言えます。そして、質の高い思考をするために必要なのは、メンバー間の密接なコミュニケーション=「関係の質」の高さなのです。

チームの成功循環モデル。(図は編集部作成)

逆に言えば、「関係の質」が高ければ「思考の質」が高くなり、続いて「行動の質」「結果の質」が高くなります。そして、良い結果が出ると「関係の質」が更に高まり、「結果、行動、思考、関係」が高いレベルで循環することで、成功し続けるチームが作られるのです。しかし、残念なことに現実ではリーダーがこの循環を、質が低くなる方向に回してしまう場合があります。

メンバーが自由に発言できるようにするためには?

前回の「チームを活性化するには? リーダーが知っておくべき3つの心得(http://woman.president.jp/articles/-/775)」では、売れ行きが目標を下回っている新製品に関する会議を例に挙げましたが、その続きを見てみましょう。

リーダー:どうしたら目標達成ができるのかについて、全員で考えていきたいと思います。実際の営業電話は、毎日何回かけていますか? 提案書を作成していますか? 顧客に対する新製品の説明が不十分なようですがAさんはどうですか、十分に説明できていますか?
A:は、はい。所定の資料を使って説明してはいますが……。
B、C、D:(沈黙)
リーダー:十分に説明できている、と?
A:はい……。
B、C、D:(沈黙)
リーダー:Bさんはどうですか?
B:はい、やはり資料だけでの説明には限界があると思います。顧客には発表会に来てもらい、そこで直接説明をすべきだと思うのですが……。
A、C、D:(沈黙)
リーダー:うーん、やはり発表会なのかな。Cさんはどう思いますか? 発表会が良いと思いますか?
C:……。

ここでは、リーダーが成果の背景にある「行動の質」を上げようと考え、個別の行動を確認する働きかけを行っています。しかし、それによってチームでは何が起こっているでしょうか? メンバー間のやりとりや関係性が整備されていないところにリーダーからの問いかけが行われているため、メンバー個々のモチベーションが下がってしまっています。

チームのやりとりを活性化するための質問を、リーダーは行っていません。リーダーがチームの「成功の循環」を意識した問いを作っていないのです。つまり、個別の行動にばかり焦点を当て、その背後にある思考やメンバー間の関係性を無視しているのです。リーダーがチームに対して自分の答えを確認するだけの質問をし始めると、メンバーの視野や思考を広げたり、お互いの理解を促進したりするような質問が出なくなってきます。そうなると今度は関係性も悪化し、「成功の循環」は逆回転し始めます。

こうしたときに必要なのは、まずはメンバー間のやりとりを促し、関係の質を高めることです。しかし、リーダーの問いかけから始まった先ほどの会話は、リーダーとAさん、リーダーとBさんの間だけで行われています。このままでは1対1のコミュニケーションが延々と続き、チーム内の関係性は全く変わりません。そして、話の内容も創発的というよりはリーダーの聞きたいことにメンバーが答えるという形式になってしまっています。このような進め方ではメンバーは自由に発言できず、当初の目的である目標達成の方法を全員で考えることなどできません。では、チームのやりとりを活発にするためには、リーダーはチームに対して、どのように問いかけたら良かったのでしょうか?

チームのやりとりを活発化するための3つのポイント

チームのやりとりを活発にするためには、以下の3点に気を付けて問いかける必要があります。

【1.質問の種類】
クローズドクエスチョン(限定質問)ではなく、オープンクエスチョン(拡大質問)で尋ねる
【2. 問いかけの仕方】
チーム全体に対する問いかけを行い、メンバー全員の発言を促した上で、改めて個別に聞いてみる
【3. 促し】
互いの発言に対するリアクションを起こせるよう、メンバーへの問いかけによって促す

まず、1つ目のポイント「質問の種類」についてですが、メンバーに問いかけるときにはYes/Noでしか答えられないクローズドクエスチョンではなく、オープンクエスチョンで聞くべきです。というのも、オープンクエスチョンで尋ねることにより、リーダーが考えていないようなアイデアや視点を引き出すことができるからです。

次に2つ目のポイント「問いかけの仕方」についてですが、最初にチーム全体に問いかけを行うことで話す準備ができている人に発言させ、その後個別に問うことによりメンバー全員が議論に参加できるようになります。

最後に3つ目のポイント「個々の発言に対するメンバー間でのリアクションの促し」についてですが、こうすることでリーダーとメンバー個人ではなく、メンバー間で意見のキャッチボールが起きるようになります。

では、この3つポイントを押さえた問いかけを使って、先ほどのディスカッションをやり直してみましょう。

リーダーの判断の押し出しで、メンバーを萎縮させない

リーダー:全員で目標達成のためのアイデアを出そうと思うので、皆さんの考えを聞きたいと思います。どうですか、何かアイデアや気付いたことはありますか?【拡大質問/全体への問いかけ】
D:そうですね、いつも積極的に説明はしているのですが……
A、B、C:(沈黙)
リーダー:Aさんはどうですか? 何かありますか?【個別での問いかけ】
A:はい、気になったのは資料に書いてある内容と顧客が聞きたい内容が一致してないのではないか、ということです。資料はよく作りこんであるのですが、顧客から見たら分かりにくく、本当に知りたい情報がすぐにはつかめないのではないかと思います。
リーダー:Aさんありがとう。皆さん、この点についてはどうですか?【やりとりを促す】
C:確かに、そういう点があるかもしれません。基本情報を伝えることに注力し過ぎて、顧客が本当に知りたいと思っている情報を無視していたかもしれません。
D:確かに、対面で紹介しているときに、顧客にあまり内容が伝わっていない気がしていました。
B:なるほど、だとすると発表会も内容を考え直した方が良いですね。

今回の例では、リーダーの問いかけから始まって、最初はおとなしかったチームがだんだんとやりとりを増やしていく様子が分かります。先ほどと違い、後半ではCさんの発言を受けてBさんが発言をしており、創発的に互いの思考を刺激しあっているのが分かります。

リーダーが問いを作る際に注意すべきポイントは、自分の判断を前面に押し出さないことです。なぜなら、リーダーが回答を持っていることが伝わると、チームメンバーは委縮してしまうからです。やりとりを活発にしたいなら、リーダーはまず自分の思考パターンや価値観を認識し、それらを脇においてメンバーに考えさせ、話させることが必要です。それはつまり、リーダーが自分の「判断」や「正解」を脇に置いて問いを立てることです。

「チームを動かす質問力」として、前回「チームを活性化するには? リーダーが知っておくべき3つの心得(http://woman.president.jp/articles/-/775)」と今回紹介した内容は、いわばチーム活動の土台を整えるための問いかけでした。チームがチームとしての価値を生み出すためには、メンバー間の良好な関係や活発なやりとりに加えて、システム思考に基づく複合的な視点をチームで共有する必要があります。そしてそのためには、メンバーの注意を本当の問題に向ける必要があります。次回はこの「問題へ注意を向ける」ための問いかけについて紹介します。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。