育児は永遠ではない、トンネルの先に光は必ずある
ウォシッキー氏は、必死に育児と仕事をやりくりしている女性に次のようなエールを送る。「生後すぐから3歳ぐらいまでは目も回るぐらい大変。でも、子供は3歳ですでに家の外に出て、人と関わりたいという社交性が出てくる。子供自身の人生、そして活動が始まっている。(自分の経験を振り返ると)特に1人目は大変だったが、必ずトンネルの先に光があるということに気付いた。この時期特有の“育児に追われる日々”は、必ず終わる。永遠じゃない。(略)それが頭にあれば、大変だからと即座に仕事を辞めずに長期的な視野でキャリアを続けることができるし、特有の忙しい時期を過ぎれば新しいスキルを身につけることも可能だ」と励ました。
ウォシッキー氏は以前からワークライフバランスの推進者として知られるが、仕事を続けながら子供を産み、育てるということは、大きく見るとワークライフバランスそのものといえる。子供を持つと出勤時間と退社時間の両方で子供優先となるが、「生産性と労働時間は比率しない」とウォシッキー氏は励ます。「残業して週末も働けば成功するのではないか、と認識している人がいるが、そうではない。もちろん、仕事中はベストを尽くさなけれなばならない。だがバランスも必要だ」。
仕事の質を上げるためにも、ワークとライフのバランスが大切
子供を持ちながら働くことは、決してキャリアにとってマイナスになるわけではない。むしろ、プラスになることもあるのかもしれない。
ウォシッキー氏自身もそれを実感している。彼女はマーケティング担当としてGoogleに入社した後、広告部門の重役になる。Googleは大型買収を多数行っているが、その中でも最大級の2つであるYouTubeの買収と、その後の広告事業の柱となったDoubleClickの買収を成功に導いたのが彼女だ。こうした実績を認められ、2014年にはYouTubeのCEOに就任。その間に4人の子供を産み育て、YouTubeのCEO就任後に5人目を産んだ。一番上は15歳、下は8カ月だという(スピーチ時)。
これまでの自身のキャリアを振り返った次の言葉は、説得力を持って響いた。「自分自身、アイデアがどこから出ているのかと考えると、残業しているときではない。広い視野を持ち、フレッシュなまっさらな状態で創造的に物事を見ることができたときだと思う。企業はこれに気が付くべき。ワークとライフのバランスはとても大切」
産休・育休や時短勤務といった制度はあっても、休みにくい、早く帰りにくい雰囲気が職場にある、というのが問題の多くを占める日本では、アメリカと事情は異なる。だが、子育てをしながら働くと、子供が否が応でも「ライフ」に引き戻してくれる。働く親たちは、このメリットにもっと気がついても良いのかもしれない。
フランスでは出産後2~3日で退院が普通
パネル中、出産10日後に職場に復帰するというアメリカの母親たちを想像したときに、自分の体験を思い出した。私はフランスで2児を出産したのだが、そのとき驚いたのが、出産後2~3日で退院するのが普通だということ。日本ではお産のために入院するとお客様のように妊婦は大切にされると聞くが、フランスの場合、看護婦さんを始め周囲はいい意味で甘やかしてくれなかった。
今思えば、それがすぐに日常に復帰できた理由の1つだったのかもしれない。全体として、出産とは“ものすごく非日常的で特別なことではない”というところだろうか。その感覚を延長すると、出産のために制度を利用して休むことも、その後復帰することも、本人にとっても周囲にとってもさほど特別ではないことになるのか、とも思った。もちろん、長期休暇をみんなが取るので、その間のフォローがきちんとできるという体制がもともとあることが一番の違いだと思うが。
欧州IT事情に詳しいフリーランスライター。@IT(アットマーク・アイティ)の記者を経て、フリーで活躍中。