4人に1人は、出産後10日で職場に復帰する
驚いたのが、ウォシッキー氏が語るアメリカの現状である。「お産をした女性の25%が、10日後に職場に復帰している」というのだ。25%、つまり4人に1人である。「アメリカの多くの女性が、業種に関係なく産休がない状態。企業のうち有給の産休制度を用意するところは24%にとどまる」とウォシッキー氏は衝撃の事実を淡々と告げる。
「社員に休まれると企業としては、その人の分の作業がどうなるか、従業員を失うのではないかと不安になる、それは理解できる」としつつも、「私が(産後)10日後に復帰を求められたら、会社を辞めるだろう」と、子供を持つ・持とうとする女性の過酷な環境にNoを突きつけた。「(10日後といえば)ホルモンのバランスはめちゃくちゃだし、赤ちゃんはまだ弱く、睡眠や食事のリズムも定着していない状態。こんな状態で戻るのは酷だ。だが仕事を休むと、会社を辞めることになり、収入がなくなる。女性達に選択肢はないのだ」穏やかな顔だが、その声からは怒りを感じた。
Googleは有給での産休を女性は18週、男性は12週へ拡大
解決策は何だろうか? 「企業が有給制度として産休を導入することだ」とウォシッキー氏は言う。Googleでは女性向けに18週間の有給産休を導入した結果、さまざまなポジティブな結果があったという。まずは女性社員への効果。4カ月以上の時間があれば、赤ちゃんは少し大きくなり、母子の睡眠や食事のリズムができたころだ。女性は心理的に「仕事に戻るという心の準備ができる」――5回の出産経験を持つウォシッキー氏の言葉は実感を持って響く。確かに10日後に出勤した場合、母体と赤ちゃんへの健康も最終的には企業にとってリスクとなるはずだ。
企業にもメリットがある。Googleが産休を12週間から18週間に延長したとき、出産後の女性の離職率が50%減ったという。カリフォルニア州が有給での産休を導入したところ90%以上が、「影響はなかった」「よい影響があった」と回答したとのこと。「数字からも、(雇用主が)有給で産休を提供することは企業と親の両方にとってメリットがあることは明らか」とウォシッキー氏は語る。
ジェシカ・アルバは女優から実業家に転身
Women’s Leadershipイベントに、ウォシッキー氏と共にパネリストとして出演していたのが、ハリウッドの人気女優ジェシカ・アルバ氏だ。彼女は現在、「The Honest Company」という家庭用品ブランドを扱う企業を立ち上げて急成長中。The Honest Companyは時価総額10億ドル、2015年の年商は2億円以上の見込みで、2人の子どもを育てながら実業家として活躍している。彼女もまた、ウォシッキー氏と同じ問題意識を持っている。ちょうどこのイベントが行われていた頃、ジェシカ・アルバ氏は自分の会社の産休を10週間から16週間に拡大することを発表し、話題を呼んだ。
そしてモデレーターを勤めたのは、CBSのニュース番組「CBS This Morning」のアンカー、ガイル・キング氏。現在60歳のキング氏は31歳と32歳で出産したときの体験を振り返り、「当時、産休は選択肢にはなかった。(子供が生まれた5月は)ニュース番組が年間で忙しい時期だったのと、欠けた期間が長いと忘れられるという焦りがあった」と語る。
ウォシッキー氏とアルバ氏、2人の出産への姿勢を聞きながら、キング氏は時代が変わったことを喜びつつも、「女性は1人出産すると所得が4%低くなるが、男性は6%増える。父親は母親よりも有能で安定しているという社会認識がいまだにある」とアメリカに残る根強く残る男女の差を指摘した。
これを受けてウォシッキー氏は「フェアじゃない」と認めつつも、「社員を大切にする企業は、家族を大切にする社員が自社にとって重要であることを理解しつつある」と変化の兆しがあると話す。「社員が成長や改善に寄与すると理解している企業は、優秀な社員を維持したいと思っている」とCEOとしての見解を示した。