※本稿は、三牧聖子・竹田ダニエル『アメリカの未解決問題』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
「米国第一」への3つのシンプルな質問
2025年1月20日、2期目のドナルド・トランプ政権がスタートした。就任演説でトランプは、「米国がこれ以上利用されることを許さない」、「非常に明快に米国を第一に据える」と強調し、初日から26本もの大統領令に署名した。
その中には、気候変動対策のためのパリ協定からの脱退や、新型コロナウィルス感染拡大時にはワクチンの開発・流通の国際協力を推進した世界保健機関(WHO)から脱退する大統領令も含まれていた。トランプに言わせれば、これらの国際的な枠組みは、米国の手足を縛るだけで、「米国の利益にならない」のだった。
さらにトランプは、対外支援が「米国第一」の外交方針に一致しているかどうかを精査するため、対外支援を90日間停止することを求める大統領令にも署名した。1週間後、国務省は、対外援助の資金拠出を原則として凍結する方針を発表し、こう述べた。
「我々が費やす1ドル、資金提供する全プログラム、追求する政策は次の3つのシンプルな質問に答えられなければならない。米国をより安全に、より強く、より繁栄させられるか」
このように「米国第一」のもと、対外支援を厳しく精査・制限する姿勢を見せているトランプ政権だが、緊急食糧援助、およびイスラエルおよびエジプトへの軍事費援助は除外された。とりわけイスラエル支援は、バイデン政権よりも手厚いものとなる可能性すらある。
ガザ問題が大統領選に落とした影
バイデン前大統領の政権は、ガザでいかに凄惨な軍事行動が行われていても、イスラエルに絶え間なく武器弾薬を送り続けた。そして民主党の新たな大統領候補者となったハリスも、この方針は変えないと宣言した。
バイデンもハリスも、こうした方針こそが選挙での勝利をもたらすと踏んでいたのだろう。親イスラエルのロビー団体は、アメリカの選挙で強い影響力を持つし、親イスラエルの世論はいまだにアメリカに強い。しかし、本当にそれは、人道的にはもちろん、政治的にも正しい選択だったのだろうか。
大統領選後に世論調査会社YouGovとInstitute for Middle East Understanding(IMEU)が行った世論調査によれば、2020年大統領選ではバイデンに投票したが、今回の大統領選ではハリスに入れなかった人があげた理由で最多だったのが、パレスチナ自治区ガザへの対応だった。長らく親イスラエル世論が強かったアメリカだが、若い世代を中心に、パレスチナ連帯が強まっている。
2024年の大統領選では少なくない有権者が、ドナルド・トランプになればさらに親イスラエルの政策が追求されることは予想しつつも、ガザで4万超の市民の犠牲を生み出すイスラエルの軍事行動に加担したバイデン政権を「より小さな悪(lesser evil)」と支持することはできないと判断し、投票しなかったのだ。
以下に抜粋する『アメリカの未解決問題』の竹田ダニエルさんと私の対談は、まだ大統領選の結果がわからない中で、ガザ問題が大統領選に与えうる影響を語り合った記録である。当時の言葉をそのままお届けしたい。(三牧聖子)
