では、なぜ女性総合職は、昇進意欲がある人が少ないのでしょうか? 清水さんは、著書でも詳しく紹介しているM/Tマトリクス(Motivation for promotion/Time constraint Matrix)を使ってその理由を解き明かします。

昇進に対する意欲が高い人のうち、時間的な制約がない人は左上の「高(無)」、時間的な制約がある人は左下の「高(有)」、また時間的な制約はないが意欲が低い人は右上の「低(無)」、時間的な制約があり意欲も低い人は右下の「低(無)」のセグメントに属する。

M/Tマトリクスは、昇進意欲の有無と時間的制約の有無の分布状況を知るためのツールで、縦軸に家事労働や育児などの時間的な制約条件の有無と、横軸に昇進に対する意欲の度合いの高低をとった表です。

新卒入社時は男女ともに、左上の「時間的制約が少なく、昇進意欲が高い」象限に位置します。それが35~45歳ごろの管理職適正年齢になると、男性の多くは入社時と変わらず、左上のその象限に留まっているのに対し、女性は結婚や出産などのライフイベントにより、時間的制約が発生して左下の「時間的制約が多く、昇進意欲が高い」象限に移動する人が出てきます。そのうちに、本人に昇進意欲があったとしても「時間的制約があるから」と重要な仕事が任されなくなり、昇進意欲を失って右下の「時間的制約が多く、昇進意欲が低い」象限に移動してしまう。多くはここで離職します。

日本企業で管理職になるには、時間的制約がなく昇進意欲が高い、M/Tマトリクスでいうところの左上の象限にいることが大前提です。「つまり、時間あたりの生産性の高さや、意志決定能力の有無よりも、時間的制約なく残業できることの方が優先される。このため、時間的制約がない、つまり独身、もしくは、子供がいない一部の女性しか管理職の対象になれない。これではいつまでたっても女性管理職比率は増えません」と清水さんは言い切ります。

ここ数年、育児休暇の延長や、企業内保育園の整備、時短勤務などの制度拡充により仕事と家庭の両立支援が進み、出産からの職場復帰率は高まりました。一方で、管理職になる女性はあまり増えていません。「昇進せず細く長く働きたい人の支援制度はあるが、昇進意欲を持ちながらも時間的制約があるという女性を支える制度が少ない」と清水さんは指摘します。