アドバイスが響かない、その理由

人を動機付ける、つまりやる気を引き出すにはどうしたらいいのか。そのヒントは内的動機付けの要因が多くの場合、本人にとっても理解できていないブラックボックスだという点にあります。なぜなら、私たちは日常生活において自身の行動がどんな価値判断に基づいているかを把握していないことが多々あるからです。部下のやる気を引き出すために必要なのは、意見を押し付けるのではなく、本人の動機付けの要因を明らかにする支援をすることです。そして、そのためのツールが「質問」なのです。

逆に言えば、他人から押し付けられた理由では、人は動機付けされません。たとえば、こんなやりとりに覚えはありませんか?

A「Bさん、お願いしている企画書の進捗はどう?」
B「はい、過去に似た企画書があったので、そちらをベースに作っています」
A「そうか。それもいいけど、せっかくの機会だから自分なりの企画書を作ってみたら? 提出まで時間もあるし、作ってくれたら私も目を通すからさ」
B「ええ、でもほかにもやることがたくさんありますから、これはこのままでいいと思います」
A「そう? これを機に力をつけてもらおうと思ったんだけどな……」

良かれと思って水を向けても、本人がやる気にならなければどうしようもない。そのように感じられたことがあるのではないでしょうか? ちょっとしたことであれば問題はありませんが、こうした事態が積み重なると、当人のスキルアップやチーム内でのコミットメントに支障をきたす場合があります。また、熱意をもって取り組む人とそうでない人とでは将来的に大きな差が開いてしまいますので、部下の育成やチームとしての成長を考えるならば、こうしたタイミングを捉えて、やる気を引き出していかなければいけません。

では、どうしたら人を内的に動機付けられるのでしょうか。重要なのは「本人がその物事と自分とが関係あると思えるか否か」です。人は自分が関係ない、自分にとって意味がないと思うことには動機付けされません。また、仮に関係があったと理解しても、自分が影響力を行使できると思えなければ、結局は取り組んでも意味がないと思ってしまい、内的な動機付けがされません。逆に言えば、本人にとってどんな意味があるのかを明らかにできれば、やる気を引き出すきっかけをつかむことができます。