「言われたからやる」を防ぐ問いかけとは?

人を動機付けようとするならば、本人にとっての意味を明らかにするような伝え方をする必要があります。その際、指示命令では「言われたからやる」と考えるだけで、自分から取り組もうとは思えなくなります。必要なのは、質問を使って視野を広げることにより本人が気付いていない関係性や意味についての理解を促すことです。

先ほどの事例を基に考えていきましょう。Aさんは成長の機会としてBさんなりの企画書の作成を促しましたが、Bさんは興味がないような返事をしました。AさんはBさんにどのように問いかければよいでしょうか?

A「自分で一から企画書を書くことについては、Bさん自身はどう思っているの?」
B「……自分の力ではまだ最初から企画書を作るイメージができないので、過去のものを土台にしたほうが良いものができると思っています」
A「なるほど、自分ひとりで企画書を作ることに不安を感じているんだね?」
B「はい、そうですね……経験したことがないので、不安です」
A「企画書を書くこと自体についてはどうかな? やってみたいと思っている?」
B「ええ、企画を考えるのは好きですし、それをやりたくてこの会社に入ったので」
A「そうなんだね。それじゃあ、今後、どうやっていけば自分で一から企画書が書けるようになると思う?」
B「うーん……さっき言ったことと矛盾しますけど、やっぱり何回か実際に書いてみて、人に見てもらうっていうプロセスが必要なのかなって思います」
A「じゃあ、Bさん自身はチャレンジしたいと思っているけど、不安があるっていうことかな?」
B「はい、そうかもしれません」
A「たとえば、そうした不安がなくなったとしたらどうだろう? やってみたいと思う?」

このやりとりでは何が起こったのでしょうか? 最初に紹介したケースでは「やる気がない」ように見えたBさんですが、Aさんがいくつか質問をする中で企画書を書くことに対する不安が関心より強いことが分かりました。最初に紹介したやりとりの最後で、Aさんは企画書を書かせることがBさんの成長の機会になると思っていたことが見てとれます。しかし、後に紹介したケース、質問を使ったやりとりではそうしたAさんの意見を出すことなく、Bさんの思考を広げ、問題を構成する要素と当人との関係性について問いかけることで、動機付けのきっかけを探っていることが分かります。

Aさんの問いかけを通じて、Bさんは一から企画書を書いてみるというプロセスが自分にとって重要なのだと認識し、同時に感じている不安をAさんに伝えることができました。ふたを開けてみれば、Bさんはやりたいと思っていたけれども、不安でそう言い出せなかったということだったのです。このように、Bさんが抱えていた多様な思いを表に出すことで、そのやる気を阻害している“不安”という要素が明らかになり、対処が可能になりました。