指示や依頼をしても部下が動いてくれない。そんなとき“人を動かすためのツール”としておすすめしたいのが「質問」です。今回からは「やる気を引き出す」ための質問を紹介していきます。まず、やる気を引き出すとはどういうことなのか、そのためにどのような質問が有効なのかを事例を交えながら見ていきましょう。

作業はするが、やる気が見えない!

「あの子、やる気ないのかな? 何かアドバイスしても、全然食いついてこないんだよね」
「でも、言ったことはやるんだよね。こっちが言っていることの意味も分かっているはずなんだけど……」

皆さんの職場で、こんな経験はないでしょうか? 仕事の進め方や取り組みは分かっているけれども、熱心に取り組んでいるようには見えない。もしくは、現状の仕事に満足しているのか、小さくまとまってしまっている。それは、その人が動機付けられていないから、つまり「やる気になっていない」からかもしれません。

やる気を感じさせない部下。「これだから最近の若者は!」と憤らずに、やる気の引き出し方=動機付けについて考えていきましょう。

言うまでもなく、組織やチームで活動するとき、大事なのは各メンバーが主体的に考えて取り組むことです。そうした状態を生み出すために必要なのは、取り組んでいる問題がメンバー間できちんと共有されていること、そして各人がその取り組みに対して動機付けられていることです。人をやる気にさせるのが難しいのは、何によって動機付けられるかが人によって異なるからです。

やる気になる“動機”を大きく分けると、賞罰のように外的な要因によって左右される外的動機付け、そして価値観のように内的な要因によって決まる内的動機付けが挙げられます。外的な要因、つまりは「アメとムチ」は分かりやすく、アプローチもしやすいのですが、内的な要因は分かりにくく、ブラックボックスになりがちです。では、どうしたら他人を内的要因によって動機付けることができるのでしょうか?

アドバイスが響かない、その理由

人を動機付ける、つまりやる気を引き出すにはどうしたらいいのか。そのヒントは内的動機付けの要因が多くの場合、本人にとっても理解できていないブラックボックスだという点にあります。なぜなら、私たちは日常生活において自身の行動がどんな価値判断に基づいているかを把握していないことが多々あるからです。部下のやる気を引き出すために必要なのは、意見を押し付けるのではなく、本人の動機付けの要因を明らかにする支援をすることです。そして、そのためのツールが「質問」なのです。

逆に言えば、他人から押し付けられた理由では、人は動機付けされません。たとえば、こんなやりとりに覚えはありませんか?

A「Bさん、お願いしている企画書の進捗はどう?」
B「はい、過去に似た企画書があったので、そちらをベースに作っています」
A「そうか。それもいいけど、せっかくの機会だから自分なりの企画書を作ってみたら? 提出まで時間もあるし、作ってくれたら私も目を通すからさ」
B「ええ、でもほかにもやることがたくさんありますから、これはこのままでいいと思います」
A「そう? これを機に力をつけてもらおうと思ったんだけどな……」

良かれと思って水を向けても、本人がやる気にならなければどうしようもない。そのように感じられたことがあるのではないでしょうか? ちょっとしたことであれば問題はありませんが、こうした事態が積み重なると、当人のスキルアップやチーム内でのコミットメントに支障をきたす場合があります。また、熱意をもって取り組む人とそうでない人とでは将来的に大きな差が開いてしまいますので、部下の育成やチームとしての成長を考えるならば、こうしたタイミングを捉えて、やる気を引き出していかなければいけません。

では、どうしたら人を内的に動機付けられるのでしょうか。重要なのは「本人がその物事と自分とが関係あると思えるか否か」です。人は自分が関係ない、自分にとって意味がないと思うことには動機付けされません。また、仮に関係があったと理解しても、自分が影響力を行使できると思えなければ、結局は取り組んでも意味がないと思ってしまい、内的な動機付けがされません。逆に言えば、本人にとってどんな意味があるのかを明らかにできれば、やる気を引き出すきっかけをつかむことができます。

「言われたからやる」を防ぐ問いかけとは?

人を動機付けようとするならば、本人にとっての意味を明らかにするような伝え方をする必要があります。その際、指示命令では「言われたからやる」と考えるだけで、自分から取り組もうとは思えなくなります。必要なのは、質問を使って視野を広げることにより本人が気付いていない関係性や意味についての理解を促すことです。

先ほどの事例を基に考えていきましょう。Aさんは成長の機会としてBさんなりの企画書の作成を促しましたが、Bさんは興味がないような返事をしました。AさんはBさんにどのように問いかければよいでしょうか?

A「自分で一から企画書を書くことについては、Bさん自身はどう思っているの?」
B「……自分の力ではまだ最初から企画書を作るイメージができないので、過去のものを土台にしたほうが良いものができると思っています」
A「なるほど、自分ひとりで企画書を作ることに不安を感じているんだね?」
B「はい、そうですね……経験したことがないので、不安です」
A「企画書を書くこと自体についてはどうかな? やってみたいと思っている?」
B「ええ、企画を考えるのは好きですし、それをやりたくてこの会社に入ったので」
A「そうなんだね。それじゃあ、今後、どうやっていけば自分で一から企画書が書けるようになると思う?」
B「うーん……さっき言ったことと矛盾しますけど、やっぱり何回か実際に書いてみて、人に見てもらうっていうプロセスが必要なのかなって思います」
A「じゃあ、Bさん自身はチャレンジしたいと思っているけど、不安があるっていうことかな?」
B「はい、そうかもしれません」
A「たとえば、そうした不安がなくなったとしたらどうだろう? やってみたいと思う?」

このやりとりでは何が起こったのでしょうか? 最初に紹介したケースでは「やる気がない」ように見えたBさんですが、Aさんがいくつか質問をする中で企画書を書くことに対する不安が関心より強いことが分かりました。最初に紹介したやりとりの最後で、Aさんは企画書を書かせることがBさんの成長の機会になると思っていたことが見てとれます。しかし、後に紹介したケース、質問を使ったやりとりではそうしたAさんの意見を出すことなく、Bさんの思考を広げ、問題を構成する要素と当人との関係性について問いかけることで、動機付けのきっかけを探っていることが分かります。

Aさんの問いかけを通じて、Bさんは一から企画書を書いてみるというプロセスが自分にとって重要なのだと認識し、同時に感じている不安をAさんに伝えることができました。ふたを開けてみれば、Bさんはやりたいと思っていたけれども、不安でそう言い出せなかったということだったのです。このように、Bさんが抱えていた多様な思いを表に出すことで、そのやる気を阻害している“不安”という要素が明らかになり、対処が可能になりました。

自分の意見を押し付けず、問いかける

やる気がないように見える人に対して、「意味があるからやりなさい」と言ったところでその人を動機付けることはできません。大事なのはブラックボックスになってしまっている内的な動機の要因を共有し、思考を広げ、視点を変えることで本人と事柄との間にどのような意味があるのかを確認させるということです。そして、そのためには問いかけ、つまり質問することが重要なのです。

やる気を引き出すためには、自分の意見を伝えるのではなく、相手の理解を共有し、物事と当人との間にある関連性への気付きを支援することが必要です。そのために行う質問としては、思考や視野を広げるための「オープン」と「クローズド」の質問、相手の強みを伸ばすための「肯定的」で「未来志向」の質問など種類がありますので、今後ご紹介していきます。次回は思考や視野を広げるための「オープン」と「クローズド」の質問について、ご説明いたします。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。