女性事業責任者に必要とされる3つの能力とは?

さて、ここからは「女性事業責任者に求められる能力」についてまとめましょう。前述しましたように、部長職や事業責任者は、権限と責任を持たされてプロジェクトを推進していくわけですから、マネージャー(課長職)とは、持つべき能力がまったく違ってきます。つまり、求められるのは「経営を理解した上で、事業全体をディレクションできるか」ということになります。そのために、これからそんな立場になる女性には、3つの能力を備えていただくように提言したいと思います。

森本さんがスウォッチグループジャパン・オメガ事業部長をしていた頃に愛用していた「オメガ」の時計。森本さんが事業責任者として身に付けた「勇気と覚悟」の本質を、この時計は知っている。

(1)「俯瞰力」
ビジネスで起こることは、一方通行ではありません。相手がいて、仲間がいて、自分がいる。関わっているそれぞれの状況を理解しながら、起こっている事象を客観的に把握して、まとめ上げなければなりません。そのためには、自分の思いだけで突っ走るのではなく、一歩引いて物事を観る俯瞰力とその心構えが必要になってきます。また、俯瞰力を持ってこそ事象を正確に把握できるようになりますし、正しいジャッジと進むべき方向性の指示ができるようになりますので、この能力は本当に重要だといえます。

(2)「数字力」
経営は数字で成り立っています。従って、何より大切なことは、数字を把握する力です。部長職や事業責任者はビジネスリーダーでもありますので、そこにはどんな形であれ必ず数字への責任が生まれてきます。売上もコストも時間も人員もすべて数字です。どのくらいの数字を投資して、どのくらいの数字を構築すれば経営に貢献できるのか、そういった視点で事業部のポジションと運営を考えられるようにならなければなりません。これは一朝一夕で身に付くものではありません。いざ部長職になった時に困惑しないように、マネージャー(課長職)の段階からその訓練をしておくことが大切です。

(3)「勇気と覚悟」
女性である限り、男性社会の中で昇進していくと、時には嫉妬されたり憎まれたりすることもあるかもしれません。そのためには、それを気にしない「前向きな鈍感力」といったものが必要かもしれません。ただ私は、これを「勇気」と言い換えたいと思います。努力を続けて、能力を伸ばしていけば、これからの女性にチャンスは必ずやってきます。その時には躊躇(ちゅうちょ)することなく飛び込んでいくこと。そのチャレンジを成功させるためにも、心に磨きをかけておくことも忘れずにいてください。また、もう1つは「覚悟」。特に、事業責任者にまでなると人事権を持つことになります。人事権を持てば、経営最適を考えた上で、人に恨まれるような組織改革や人事異動を実行しなければなりません。時には、リストラを敢行しなくてはならない場合もあります。これが外資系企業となれば、なおさらです。しかしここでは、私情を捨てられる強さと、実行するための覚悟を持たねばなりません。それができてこそ、このポジションでの成功が見えてきます。勇気と覚悟。この2つを同時に持つことを心に刻み込んでください。

このように私は、日系企業、外資系企業を通じて約30年間、ビジネスウーマンとしてのキャリアを積み上げてきました。しかし、東日本大震災が起こったことにより心境の変化が生じます。長年、時計ブランドに携わってきたことから、「自分自身で日本発の新しいブランドをつくりたい」という思いがふつふつとわき上がってきたのです。そして起業を目指すことになります。そこで経験したことは、また次回にお話したいと思います。

森本道子(もりもと・みちこ)
株式会社ココミーユ 代表取締役
男女雇用機会均等法の施行前である1983年に大学を卒業。日系大手食品会社に就職した後、日系企業2社に勤務。慶應義塾大学ビジネス・スクールにて経営学のMBAを修得した後、「ジャガー・ルクルト」や「オメガ」といったグローバルな時計ブランドを扱う外資系企業4社にて、マネージャー、ディレクター、事業責任者として活躍。2013年に長年の夢であった起業を目指して独立、日本初のベビーパール専門のジュエリーブランドを提供する株式会社ココミーユ(http://coco-mille.co.jp/)を設立。代表取締役社長として現在に至る。

撮影=石井雄司