借金は正常な取引の結果だった!

それでは、トヨタ自動車の2015年3月期の連結貸借対照表を見てみましょう。

円グラフにするとこのようになりました。

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負債の中身を占める「債務」。「債務」とは、受けた便益に対する返済義務のことで、例えば借入金や未払金等を指す。対義語は債権。

お金の使い道では固定資産が6割を占め、その調達先では負債が6割を占めていることが分かります。堅実な経営を続けてきたイメージの強いトヨタですが、資金源の6割を他者から調達しているということで、実は借金が多いことが読み取れます。

ここで負債の中身を見ると、短期借入債務、1年以内に返済予定の長期借入債務、長期借入債務の3つの債務で合計約19兆円となります。連結ベースで年間売上27兆円、当期純利益2兆円のトヨタからすると、19兆円もの借金は多すぎるように感じられます。なぜこれほどの借金を負うことになったのでしょうか。

その秘密はお金の使い道にあります。固定資産の中身を見ると、そのうち9兆円が長期金融債権。また、流動資産のうち6兆円が金融債権。合計15兆円もの金融債権が計上されています。このことから、トヨタは多額の借金をしてそれをまた他者に貸していることが分かります。

実はトヨタグループは自動車事業以外に金融事業も展開しており、トヨタ車を購入した顧客への融資やトヨタ車のリース等をしています。トヨタの自動車等セグメントと金融セグメントを区分した連結貸借対照表によれば、債務のうち18兆円は金融事業で発生したものだということが示されています。金融事業の場合、一般的に債務割合が高くなります。それは一般消費者のお金を預かって企業や他社に貸している銀行を思い浮かべれば納得いくことでしょう。

以上から、トヨタは一見借金が多すぎるように思われますが、実はそれは金融事業によって発生した正常な取引の結果だったのです。このように負債比率が高いからと言って一概に安定性が低いとは結論付けられない場合もあるのです。

今回は貸借対照表の大枠を見れば、会社のビジネスモデルや体質が見えてくることをお伝えしました。トヨタの場合のように、分析結果について疑問に感じる点があるときは、さらに貸借対照表の中身を見れば理解が深まります。中身を見る際のポイントは金額の大きいものに着目することです。

次回は不正会計が発覚した東芝の経営実態について見ていきます。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。