いまだ収束の兆しが見えないトヨタグループの認証不正問題。とりわけトヨタ本体の不正が発覚して以来、豊田章男会長への風当たりが強くなったままだ。2009年の社長就任から、業績不振だったトヨタを世界トップに押し上げたカリスマ経営者に何が起きているのか。スコラ・コンサルト創業者の柴田昌治氏は「存在感が大きくなりすぎた今こそ、豊田会長が打つべき手はある」という――。
「型式指定」を巡る不正について記者会見するトヨタ自動車の豊田章男会長(右)=2024年6月3日午後、東京都千代田区
写真提供=共同通信社
「型式指定」を巡る不正について記者会見するトヨタ自動車の豊田章男会長(右)=2024年6月3日午後、東京都千代田区

豊田会長の“信任率”はなぜ急落したか

今年6月に開かれたトヨタ自動車の株主総会では、空前の好業績とは別に注目を集めたことがある。豊田章男会長の“信任率”だ。

取締役の選任・再任は、原則として株主総会の決議によって決まる。今年の株主総会で、豊田会長の続投(再任)に賛成した株主は71.93%。佐藤恒治社長はじめ95%を超える取締役が多いなか、会長ひとりが70%台と目立って低かった。

豊田会長自身の過去の信任率(再任賛成率)と比較しても、2022年が約96%、23年が約85%だから、この2年間で24ポイントほど下がったことになる。急落だ。

【図表】豊田章男会長の「信任率」推移

トヨタの24年3月期連結決算は、文句のつけようがない好業績だった。営業収益(売上高)は前年比21.4%増の45兆953億円。営業利益は同じく96.4%増の5兆3529億円で、日本企業としては過去最高。最終利益も4兆9449億円と初めて4兆円を超え、日本の製造業では過去最高となった。業績は絶好調にもかかわらず、豊田会長の信任率が12ポイント以上も下がった意味は大きい。

考えられる原因の1つは、相次ぐトヨタグループの不正問題だ。2021年7月に発覚した販売会社の車検不正からはじまり、日野自動車のエンジン不正、豊田自動織機のエンジン不正、ダイハツ工業の衝突安全不正、愛知製鋼の公差不正、そして今年6月にはトヨタ本体でも「型式指定」を得るための認証試験で不正があったと公表された。

複数のメディアで豊田会長に批判的な記事

豊田会長が社長を務めたのは2009年から23年までの14年間。一連の不祥事は、社長時代のガバナンスに問題があったせいだという見方はできる。今年1月に豊田会長が「私自身が責任者としてグループの変革をリードしていく」と述べたにもかかわらず、問題が収束しないうちからトヨタで不正問題が発覚したことへの厳しいマイナス評価とも受け取れる。

いくつかのメディアで、豊田会長に批判的な記事が出たことも影響しただろう。異論を許さない姿勢、好き嫌い人事、優秀な人材が辞めていく状況、息子(大輔氏)の世襲にこだわっているなどの指摘だ。自ら引き上げたイエスマンに囲まれているから、取締役会で会長に異論を唱えるのは難しいといった批判もあった。事実かどうかはともかく、豊田会長のイメージをかなり引き下げる報道だった。

今回の信任率は、株主の3割近くが豊田会長のガバナンスやワンマンぶりに「ノー」を突きつけていると解釈してもいいだろう。なぜ、ここまで豊田会長への風当たりは強くなったのか。トヨタという企業は、自動車業界はもちろん、多くの日本企業にとって経営の参考にしていい存在だ。日本を代表する企業の経営者に、豊田会長は本当にふさわしくないのか。できるだけ詳しく説明していきたい。