2024年6月、国土交通省がトヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社の計38車種に不正行為が見つかったとして立ち入り検査を実施。自動車メーカーによる「不正」はなぜ繰り返されるのか。経営学の観点から組織不正について研究する中原翔さんは「2016年から18年にかけても、三菱自動車など6社の不正が問題となった。そのときと根本的な構造は変わっていない」という――。

※本稿は、中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

2016年から相次いで自動車の「燃費不正」が発覚した

そもそも、燃費不正とはどのような問題であったのでしょうか。ここで言う燃費不正とは、とりわけ2016年以降に問題となった、燃費に関する検査段階での不正を総称するものです。

この期間で発覚した燃費不正には、図表1のように国内の自動車メーカーが関わっていました。各社が、わが国における多くの自動車生産を担っていただけに、非常に大きな問題として取り上げられたことを皆さんもご存知かと思います。

特に三菱自動車やスズキの場合には、国が定める測定方法を使用していなかったことによる燃費不正でした。

それ以降の燃費不正は、自動車が完成する段階での燃費不正でした。この段階では、燃費や排出ガスの抜取検査を行うのですが、その検査において不正な測定が行われていたり、除外すべきトレースエラーをそのまま使用していたなどの燃費不正でした。トレースエラーとは、あらかじめ定められた走行モードに自動車の速度が合わせられなかった場合、本来無効としなければならないことを意味します。

【図表1】2016~18年燃費不正事例の概要
出典=『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)

フォルクスワーゲンの排ガス不正が見直しのきっかけに

ですが、マツダやヤマハ発動機では、その試験結果をそのまま使用していたこと(トレースエラーを無効にしていなかったこと)が明らかになっています。もともと、このような自動車メーカーによる不正の発端となったのは、海外の自動車メーカーによるものでした。皆さんもご存知かと思いますが、フォルクスワーゲンの排ガス不正です。

この排ガス不正は、米国環境保護庁(EPA)とカリフォルニア大気資源委員会(CARB)がフォルクスワーゲンのディーゼルエンジン搭載車に対して大気浄化法違反の疑いがあることを指摘したものになります。フォルクスワーゲンは、これらのディーゼルエンジン搭載車に排ガス試験を受けていることを自動的に感知させるソフトウェアを取り付けていました。つまり、排ガス試験の時にだけ窒素酸化物(NOx)が減らせるような装置を作動させ、有害な窒素酸化物(NOx)が基準値よりも低く出るようにしていたのです。

ただし、路上を走る場合には、この装置が作動しないようになっていました。その結果、米国が定める上限値の最大40倍もの窒素酸化物(NOx)が排出されていたのです。このようにフォルクスワーゲンは、排ガス試験を不正に通過するための装置を利用することで、ディーゼルエンジン搭載車が安全であるように見せかけていたのです。