世界最遅の選手

大技の3回転・3回転連続ジャンプを私が跳べるようになったのは26歳の時です。引退した2013年は29歳でした。29歳まで現役のフィギュアスケート選手でいるのも異例ですが、26歳で3回転・3回転が跳べるようになった選手は、世界広しといえども、きっと私だけでしょう(笑)。2010年のバンクーバーオリンピックで8位という満足できない結果になり、自分には世界で戦うために何が足りないのかを考えて、行きついた答えが3回転・3回転でした。20歳を過ぎて挑戦する技としては無謀です。だけどここで「課題はいつか乗り越えられる」と信じて努力できる私の長所が活きました。

2013年の全日本選手権では、215.18点という高得点で優勝。同大会での優勝は、出場13回目にして初めてのこと。多くのファンに感動を与える演技で、ソチ五輪への切符も手にした。

もう1つ、挫折が私に気づかせてくれたのは「人のために頑張る」と大きな力が湧いてくる、ということ。世界中の人に私のスケートを好きになっていただけたら最高ですが、必ずしもそうはいきません。それを目標にすると果てしなく大きな夢になりすぎて実現不可能。でも、鈴木明子のスケートを好きと言ってくださるファンの方や身近な人に喜んでもらうことならきっとできる。だから、身近な人、好きでいてくれる人に「笑顔になってもらおう」と考えながら滑るようになりました。

私の選手生活はゆっくり長く、途中で止まる駅数が多い普通列車のようでした。普通列車でいろんな景色を見ながら、目的地にたどり着いたというのが実感です。とかくスピードを要求される時代。でも、新幹線のようにあくせくと生きていると、早く到着できますが、景色はあまり見られないですよね。その中で焦りや疲れを感じる人がいたら、自分に寄り添って、ゆっくり行くのもいいですよと伝えたいです。

これからの目標はフィギュアスケートの振付師ですが、おかげさまでさまざまなメディアからお声がけいただき、楽しくて面白い経験ができています。ですから、私らしく、ゆっくりいろんな景色を見ながら、これからも進んでいきたいと思っています。

Skating Life chart(写真=Japan Sports)

構成=中沢明子 撮影=宇佐美雅浩 写真=Japan Sports(チャート内)