「サッカーの監督も企業のトップも決断することが、なにより重要な仕事です。明日の練習を何時から始めるか、という些細なことから、選手の疲労度の見極めまで、決断に必要な情報をコーチやマネジャーに揃えてもらって、最終的に監督がすべてを決める。それはビジネスの現場で、各部門の担当者から情報を吸い上げて決断を行う、トップの動きと同じです。ですからサッカーでも中間管理職に当たるコーチやマネジャーの役割が非常に重要になる。上がってきた情報に裏付けがあるかどうか、きちんと確認しないといけない」

反町氏は、監督に必要な資質が2つあると考えている。

「監督に必要なのはパッション(情熱)とロジック(論理)。今回のW杯で両方を持ち合わせている監督はチリのビエルサ。イングランドのカペッロも同じタイプだと感じますね」

また、監督には瞬時にチームの間違いを正す能力が必要とされる。日本の岡田監督もW杯本戦で急遽、本田をワントップにする賭けに出たが、こういった修正は大切だ。試合中であれば、ハーフタイムは特に重要になる。問題点を選手にわかりやすく伝えて、いかに修正するか。前半の映像を短く編集して、見せるチームもあるという。

「そうした映像を短時間で処理するスタッフも近代サッカーには必要です。また試合前に、その試合を裁く審判の、それまでのジャッジをスタッフと分析して戦術を決めることもある。スタッフからスカウティング、ドクター、協会のバックアップ体制を支えるスポンサーまで、大勢の人が関わるW杯では、その国のサッカーの総合力が問われる。そして、それをうまく活用するのが監督の役割なのです」

ハーフタイムの前後で戦術がどのように変わったか、など、ピッチ上だけでなく、試合の舞台裏で繰り広げられる頭脳戦を想像しながら観戦すると、より深くW杯を楽しめるだろう。

「今大会、特に注目が集まるキーパーの動きを見るのも面白いですよ。ゴールマウスを守る場面だけではなく、ビルドアップへの参加や、しっかりと声を出してディフェンスのオーガナイズに参加しているかどうかなど、チェックポイントは意外にたくさんあります」

W杯のような大きな大会では、勝ち負けは選手の優劣だけで決まらない。ピッチ上のボールを持った選手だけに注目するのではなく、チームの舞台裏や監督、キーパーの動きなどを観察しながら、これからの熱戦を観戦してみてはいかがだろうか。