──そうした右京のバランス感覚はどこから生まれるんでしょう。
水谷 ぼく自身もそうですが、人間って、どなたも性格がそんなに簡単にわからないぐらい、いろんな自分があると思うんですね。右京の中にも当然、いろんな自分がある。右京はその中の何が今必要で、何を発揮したらいいのか、逆に何を引き下げたほうがいいのかが本能的にわかる人。出してはいけないところでは出さないけれど、出したほうがいいと思うとそれを出すわけです。
──いろんな自分の中で、水谷さんになくて、右京にあるものってありますか。
水谷 右京は本当に博学ですね。文学も芸術も音楽も何でもよく知っていて、楽しむ。しかも、仕事に役立つ。それがぼくと違うところです。ぼくを本当に右京だと思って何か質問されると困ってしまう(笑)。ただ、ある方に聞いたんですが、頭はいい必要はない、頭は強ければいいと。
──頭の強さ、ですか。
水谷 ええ、一つのことをどこまで考え続けることができるか。頭のいい人はいるけれど、頭の強い人は意外と多くない。最後は頭のいい人より頭の強い人のほうが勝つ。20数年前に国際的な舞台で活躍されている知り合いの弁護士さんから伺って、なるほどなとすごく印象に残りました。
──右京も一つのことを考え続けます。
水谷 それはもうしつこいほどに。普通、社会生活を送っていると、一つのことを考え続けるのはなかなか難しいことです。邪魔するものが多いですし、ある程度のところでもういいやと妥協したりしますからね。でも、ビジネスの世界でも素晴らしい仕事をする人はだいたい変わり者だというのは、世間の常識やまわりの雑音に惑わされずに一つのことを考え続けるからでしょう。常識といわれていることは、必ずしも人のためにある常識かというとそうでもない。その辺がわかっていないと、そういうふうにはできないかもしれませんね。
──頭の強さは特別なものでしょうか。
水谷 一つのことを考え続け、思い続ける。四六時中、常に意識しているわけではないけれど、体のエネルギーが自然とそちらに向かっていて、気がつくと常に思っているし、最後まで思い続ける。それは才能でしょう。ただ、思うのはお金もかかりませんし、思えばいいだけですから、特別なものではなく、誰もが持っている才能かもしれません。でも、ほとんどの人は途中で止まってしまって、思い続ける経験がなく、自分の頭の強さを意識できていないことが多いのではないでしょうか。
──では、途中で止まらず、考え続けるにはどうすればいいのでしょう。
水谷 大切なのは考えることを楽しめるかどうかでしょう。何かものごとを発想するときって、意外とちょっとしたユーモアのセンスが必要です。だから考えることを楽しめる。実際、何かを思い続けている人は会話をしていても、ユーモアがあって面白い人が多いものです。右京もあれでいて実はユーモアのセンスがあるんです(笑)。詰まるところ、常にポジティブに前向きでいられるかどうか、それに尽きますね。右京は実にポジティブで、どんな難事件も必ず解決できると思っている。だから考え続け、思い続けることができるんでしょう。
──どんな生活をすれば、そのようなポジティブさを持てるんでしょう。
水谷 右京の私生活をあまり具体的にしゃべってしまうとちょっと……それは謎のほうがいいかなと。ですから、右京さんは警察まで何で通って来るんですかとか、どんなところに住んでいるんですかと聞かれると、こう答えるんです。ここだけの話ですけど、空を飛んでくるんですよって(笑)。
──そうお話しになっている今現在、頭の中は右京さん、それとも、水谷さん?
水谷 今は、6対4でぼくです。
──つまり水谷豊ならぬ、“水谷右京”流の発想術指南、ありがとうございました。
※プレジデント社のムック『謎解きの発想術』より転載。
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