諦めなくて良かった

操縦者免許は秩父鉄道に戻ってきて、しばらくしてから地方運輸局に於いて交付されます。これは昔からよく言われているそうですが、電車の免許の写真は更新されるということがないんです。だから、何年経ってもそこには教習所を卒業した時の顔があって、「それを見て初心を忘れるな」と先輩たちから伝えられました。

いま、それから5年が経って胸に抱くのは、やっぱり運転士になることを諦めないで良かったという気持ちです。

女性運転士はまだまだ珍しいので、仕事中にお客様に話しかけられることも多いんですね。「がんばってね」と言われたり、子供が沿線から手を振ってくれたり。通学の中高生の女の子が私を見て、「こういう仕事もできるんだ」と言っていたりすると本当に嬉しいですね。電車や機関車には車種ごとに特徴があって、まだまだ自分が納得できるような運転はできていなので、毎日が研究です。

仕事は6週間で一周するシフト制で、始発だと4時45分の出勤からお昼頃まで、夕方からであれば24時14分の勤務までととても時間が不規則です。寝坊する夢をときどき見るし、絶対に寝過ごさないように目覚まし時計もいくつも用意している日々です。

厳しい規則の中で働くので大変なこともあるけれど、憧れて自分がなりたいと思った仕事。笑顔でいることを忘れずに、電車を運転することを楽しみたいと思いながら、できるだけ長いあいだ続けていきたいです。

●手放せない仕事道具
帽子、手袋、懐中時計

●ストレス発散法
走ること。1日10km~20km走ることも

●好きな言葉
笑顔を忘れずに

秩父鉄道 列車区 廣井綾子(ひろい・あやこ)
1986年埼玉県出身。2007年秩父鉄道株式会社入社。御花畑駅員、車掌見習いを経て、運転士養成のための教習所に入所。2009年甲種動力車操縦者運転免許証を取得し現職となる。

稲泉 連=構成 向井 渉=撮影