出来る限り多くの車種に乗る

クルマの開発や評価をする際には「物差し」が大事になります。例えば30cmの物差しがあって、左側が悪い、右側が良いとするなら、この車はその間のどの位置にあるのか。それを計るのがクルマを評価することの本質です。だから、価格の安いクルマも最上級の高級車も分け隔てなくたくさん乗って、まずは自分の物差しを確かなものにしていく。新人の頃はそれが乏しいので、何を言っても参考意見としてしか受け入れてもらえなかったものです。

次に先輩から繰り返し言われたのは、「運転技術というのは早く走れる能力ではないぞ」ということ。

テストコースや市街地を走るとき、1周目は時速40km、2周目は時速60kmと全く同じように運転する能力が、私たちにとっての「運転技術」です。時速20kmでも200kmでも安定して、同じように心のゆとりをもって走らせる技術ですね。RX-7を200kmで走らせているとき、走らせることだけに精いっぱいになってしまったら、音やハンドルからのインフォメーションが感じられなくなってしまいますから。

また、運転の技能が上がると、今度は消費者の人たちと自分との差が分からなくなりがちなので、それにも普段から注意が必要です。なので、評価会で社内の女性や友達の話を聞き、一般の人の運転のやり方を普段からよく見て、自分でもやってみるようにしています。いろんなユーザーの方の使い方を理解するために、正しい運転姿勢だけではなく、シートをいっぱいに上げてみたり、適切な運転姿勢を敢えて崩して運転したりするわけです。正しい運転の仕方に馴染んでいる自分たちが特殊なんだと思わないと、車の開発は間違えると思います。