記憶術5つの原則

記憶力向上のための原則には、前述の「注意を払う」「連想を使う」に「整理・分類」が加わります。野菜・肉類・乳製品が分類されたスーパーマーケットのようにカテゴライズしたほうが覚えやすいですし、FBI、ANAといった略語も効果的でしょう。

我々の脳は、意味がわかるものしか覚えていません。すでに行っておられる方も多いと思いますが、ネットや銀行口座番号、暗証番号を簡単に覚えるには、一つひとつの文字を何かの頭文字に置き換え、意味づけするのが有効です。

さらにもう一つの原則は「興味を持つ」です。私はよく講演会でお客様の中からご夫婦を壇上に上げ、ご主人の背後に奥様を立たせて、ご主人に奥様の服装について尋ねますが、ほとんど答えられません。なぜなら、興味を持っていないからです(笑)。逆に、奥様は他の女性が5年前のパーティーで着ていた服装でさえはっきり覚えています。

人は、自分が興味を持ったものだけ覚えています。数学に興味がある人は、数字や数学に関する知識をよく覚えているし、雑学に詳しい人は様々な事柄への好奇心が強い。人の名前をよく覚えているのは、他人への関心が高い人といえます。

ビジネス上の成功と記憶の技術とは密接に関わっていますが、特に人の名前を覚える技術は重要でしょう。名前を含めたお客様のすべての情報を知っていたら、そのお客様はすごく喜ぶし、もう一度買おうかという気にもなります。

そのためには、まず覚えることを怖がらないことと、聞き役に回ることを心がけましょう。人は長い自己アピールより、自分の話を聞いてもらった人に好感を抱くものです。次に、名前は繰り返し口に出して覚えます。3つ目に、会っている最中にその人の名前と何かを結び付けて覚えます。4つ目に、1カ月に1回は手元の20枚の名刺を見て、どんな人だったか、どんな顔立ちだったかを思い返す。5つ目は、しばらく会っていない人と会合で会う前は、出席者の名簿を見て準備しておく。相手は「会わなくてもずっと覚えていてくれた」と好感を持ちます。

最悪の場合、忘れてしまった名前を相手から聞き出す技術もあります。「お名前をもう一度」と言い、相手が苗字を告げたら「それは知っているんですが、下のお名前は何でしたっけ?」と再度聞いてフルネームを覚える、というのが基本です。

若い人と年配の人とで記憶するための手法に違いはありますか? とよく聞かれますが、手法というよりも、まず記憶力を高めるための理由が異なるのでは、と感じます。若い人が知りたいのは、成功に近づくための手法です。若い頃はすべてが新鮮で、「赤ちゃんはどこからくるの?」といった素晴らしい質問を連発していたと思います。

が、年配の方が知りたがるのは、覚えたことを忘れないための手法。年を重ねると新鮮に感じるものがなくなり、質問といえば「どんな薬飲んでるの?」といったどうでもいいもの。子どもの頃のようなワクワク感、昂揚感がない。多くの方が20年前のことを覚えていても、昨日のことを忘れているのはそのためです。

大切なのは、いろいろな物事に興味を抱くために、日頃から熱意や情熱を持ち続けることです。熱意や情熱が物事への興味を呼び起こし、記憶力の向上に貢献するのです。

エラン・カッツ
ギネスブックの「記憶力世界一」記録保持者。 1965年、イスラエル生まれ。ヘブライ大学卒業、欧州の大学でも学ぶ。98年、記憶力世界一としてギネスブックに掲載。現在、世界中で記憶力に関する講演やコンサルティングなどを行う。著書に『ユダヤ人が教える正しい頭脳の鍛え方』ほか。
(西川修一=構成 石橋素幸、小原孝博=撮影)
【関連記事】
「復習4回」で脳をダマすことができる
50歳過ぎからの「脳」の鍛え方
『世界一の記憶術』
電話帳・住所録不要、自衛隊で鍛えた鬼の記憶力 -すしざんまい社長 木村清氏
記憶力の減退を感じたら―久恒辰博