150字の指示で個人情報を抜き取る
指示文を打ち込んで、わずか15秒ほどのこと。画面には「収集が完了した」の文字が浮かんでいる。作成されたファイルを開くと、架空の利用者情報が並んでいた。実演用に用意したダミーサイトから、個人情報がまんまと抜き取られたのだ。
東京のセキュリティー会社S&Jが、侵入テストの模様を読売新聞に公開した時の一幕だ。同社の三輪信雄社長が、自ら判断して作業を進めるAIエージェント「ARTEX(アルテックス)」の攻撃性能を、ダミーサイトを使って実演した。三輪氏は10月7日にこのツールを入手し、米アンソロピックのAI「Claude(クロード)」を接続したという。そのうえで150字ほどの短い日本語の指示文(プロンプト)で、サイトの脆弱性(システムの弱点)の診断と個人情報の収集を命じた。サイトには標準的なセキュリティー対策が施されていたが、それでもARTEXはわずかな隙をたちまち探り当てた。
「人間なら数日かかる作業を、秒単位、分単位で済ませてしまう」と、三輪氏は同紙に説明している。
ARTEXは匿名のエンジニアが開発した、中国語の脆弱性診断ツールだ。外部のAIモデルを「頭脳」として接続することで、自ら判断しながら作業を進める仕組みだ。接続するAIモデルの種類は問わない。開発者によれば、ARTEXは「企業や組織に使用してもらう目的」で7月に一般公開された。
中国人ハッカー御用達のDeepSeek
三輪氏が試したのはあくまでダミーサイトだ。一方で、日本企業を狙った実際の攻撃に関して、ARTEXが使われた可能性が早くも指摘されている。
こうしたAIツールが広まったことで、高度な技術を持たない者でも大規模な攻撃を仕掛けやすくなった。研究者によれば、攻撃に使うAIモデルとして、中国のハッカーが好んで選んでいるのが、中国製のDeepSeekだ。比較的性能が高いうえに、悪用を防ぐ歯止めが非常に緩いためだという。
ARTEXに限らず、日本へのサイバー攻撃は全体として増え続けている。ロイター通信が伝えたTrendAIの集計によると、日本のサイバーセキュリティー事案の件数は1〜9月だけで早くも昨年1年分を上回った。9月は86件で、前月より約18%多い。

