農家にとってリスクが高いデントコーン畑

秋は、ヒグマが冬眠準備のために大量の食物を食べ、皮下脂肪を短期間で蓄える季節である。山林内での主要な食物はミズナラなどのドングリであり、道南などではコナラやブナ、クリ、オニグルミなども加わる。

ヤマブドウやサルナシ(地方名コクワ:キウイフルーツの原種と近縁)の果実もよく食べる。知床半島では、カラフトマスから少し遅れて大きめの河川に遡上するサケ(シロザケ)も重要な食物である。ドングリの豊作年には、ヒグマは意外と田畑に出てこない傾向がある。

ヒグマは田畑に出てくる時は、それなりに警戒して夜間に出てくることが多いため、彼らとしてもストレスを感じながら田畑で食事をするよりも、天然の食物としてはそれなりに脂質や炭水化物が豊富なドングリを山林内で飽食できるときは、そのほうがよいのかもしれない。

一方、ドングリ凶作年にはビートなどの農作物被害が増える。ただし、トウモロコシ類への嗜好性は、ドングリの豊凶に関係なく高いように感じられる。近年は家畜飼料用のデントコーンの作付面積が道内で増えており、それに伴ってヒグマによる被害も増加している。

北海道のデントコーン作付面積の推移
図版作成:小林惑名

デントコーン畑は丈が高く密植されていて見通しが悪いため、ヒグマが畑の中に身を隠して長時間滞留しながら食事をしてしまう傾向がある。そのため農家にとってはリスクが高い作物である。知床半島西側における2015年秋の大量出没時には、ドングリの大凶作の影響か、ビート畑の被害が増え、結果としてそれが大量捕殺につながった。

ヒグマが食べたデントコーンの食痕
写真:石名坂豪
ヒグマが食べたデントコーンの食痕

山の実りが多くてもヒグマは満足しない

ヤマブドウやサルナシ、オニグルミなどはそれなりの量が山にあるように見えたが(定量的な評価はできていない)、彼らの基準では栄養価的に少し足りなかったのかもしれない。また、この年の秋にはキハダの実を食べたヒグマ糞をよく見かけたが、他の年にはあまり見なかった。

キハダの実はヒグマの食物メニューの一つではあるが、少なくとも知床半島のヒグマにとっては、嗜好性があまり高くない可能性がある。秋の終わりに丸々と太ったヒグマたちは、早い個体では11月から冬眠に入り始める。