ダイエーによる価格破壊の衝撃

94年5月に酒税改正があり、ビールは1リットル当たり14円増税されて222円となる。大手4社はこれまで通りに、当時の小売り希望価格を同じ幅で値上げする。大瓶(633ミリリットル)一本当たり10円値上げして消費税別330円に、350ミリリットル缶は5円値上げして同225円となった。

これに対しダイエーは4月、4社横並びの値上げを狙い撃ちするかのように、逆に値下げする。4社の350ミリリットル缶を、同198円で売ったのだ。

「ダイエーショック」と呼ばれたが、他のスーパーも追随し、値下げを実行していった。ダイエーを創業した中内㓛会長兼社長による、”価格破壊”だった。

これにより、ビールは「一物一価」ではなくなり、酒販店による定価販売も、建値制そのものも崩れていく。ビールの価格決定権は、メーカーではなく、スーパーやコンビニ本部といった大手流通がこの時点では握るようになっていった。

写真=Hitam1200/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons
JR長岡駅東口にあったダイエー長岡店(越後交通ビル)。

94年は4月にメーカーに課していた最低生産数量が年60キロリットルに緩和されて、地ビール(クラフトビール)が解禁される。さらに、10月にはサントリーが酒税率の低い発泡酒を発売した。

サッポロも95年、発泡酒に参入。麦芽使用比率25%未満とさらに税率の低い発泡酒とし、希望小売価格はサントリーよりも20円安く設定。翌96年、サントリーも25%未満の発泡酒を発売するが、サッポロよりも10円安くした。業界横並びの価格体系は、開発されて間もなかった発泡酒では崩れていた。

「私に言わせれば、談合でしょう」

ちなみに、ビールに高額な税が課せられたのは、明治期の1901年。日露戦争の戦費調達が目的だった。日本が軍事国家へと進むにつれ、ビール税は上昇を続ける。戦後、本来なら戦費調達の必要がなくなったのに、高額なビール税は残る。また、ビール販売が免許制となったのは太平洋戦争開戦前夜の1938年。

ではどうしてここに来て、カルテル疑惑(一部は認めている)が生じる事態を招いたのか。

この10年を見てみると、酒税改正以外で大手4社がビール類を値上げしたのは、2018年春、22年10月、25年4月。原材料費や輸送費の上昇などがその理由だった。

22年の値上げ直後、大手スーパー首脳は筆者に次のように話した。

「醤油など調味料、パン、そしてビールなどの大手メーカーと私たちスーパーとの関係だが、優越的な地位はいまやメーカーがもっている。今般の食品値上げにしても、メーカーの売上高やシェアとは関係なく、一斉に行われてしまう。私に言わせれば、談合でしょう。我々は、どうすることも出来ない。おかしい。

90年代、ダイエーの中内㓛さんがビールメーカーの値上げを跳ね返し逆に値下げをした上に、PB(プライベート・ブランド)を展開した前例はあった。しかし、いまは違う。公取委に対しては、『優越的地位は逆転され、メーカーにある』と伝えた」

店頭価格はいまは小売りが決めるものの、出荷価格を決めるメーカーの存在感は大きいとの主張だった。