「サメ」と呼ばれた名物館長
かつて「私の収集方法は〈海賊〉のようなものだ。私は〈サメ〉と呼ばれている」と語ってはばからなかったというホヴィングは、「画商、プライベートなコレクター、密輸人やフィクサーの連絡先を書いた黒くて小さい連絡簿は誰よりも大きい」などと豪語していたという。
ホヴィング館長の時代に購入された、2500年前に製作されたと思われるギリシャの壺(エウフロニオス作)をめぐっては後日談がある。購入当時からローマ近郊のエトルリア人墓地から略奪されたと疑われていたが、METは2006年、イタリア政府の返還要請に応じ、返還することに合意。ただし、ほかの古美術品を長期貸与してもらうという契約だった。
2023年の国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の報告書によると、METにある1000点以上の古美術品が略奪美術品だとされる。翌年、METは、内乱の混乱に乗じて密輸人によって売買され、METに購入されていた石像などを一部、カンボジアとタイに返還している。
ヨーロッパで相次いだ「中国美術品」の盗難
美術館・博物館の建築ブームという点では、なんといっても中国が目覚ましい。
1949年、共産主義国となった中国には博物館(美術館)がわずか25館しかなかった。1966年から76年の文化大革命では多くの美術品が焼失した。それが2022年には一説によると7000館近い博物館(そのうち美術館は約4500館)となったという。それだけの数の博物館(美術館)の展示品を収集するだけで気が遠くなるほどではないか。
ところで、2010年から2015年の間、ヨーロッパ各都市の美術館で謎の中国美術品の盗難が続出した。
2010年8月にスウェーデンの首都、ストックホルム近郊のドロトニングホルム城で起きた盗難を皮切りに、イギリスのダラム大学内のオリエンタル美術館、ケンブリッジ大学のフィッツウィリアム美術館、パリのフォンテーヌブローの中国博物館でも盗難事件が起こり、ノルウェーのベルゲンにあるKODE美術館は二度、2010年と2013年に盗難にあっている。
これらの盗難には中国陶器の花瓶、金製の曼陀羅、トルコ石やサンゴなどについて、なんらかの知識のある者たちが組織的、計画的に盗みに関与していたのではないかということだ。

