「キャンセル操作をした覚えはない」

オーナーに事情を聞くと、この旅行者の予約を受け付けた中華系宿泊予約サイトから電話があり、「予約がキャンセルになったと言われた」という。問題は、宿泊をキャンセルしたはずの旅行者が実際に宿泊していることだった。宿泊料金については、すでにクレジットカードで決済されているため、予約がキャンセルになれば宿側は宿泊代金を受け取れなくなるのである。

一方で、中国人旅行者にも話を聞いたところ意外な説明を始めた。この旅行者が、オーナーに見せた翻訳アプリにはこう書かれていた。

「中国語対応の予約サイトを利用し、クレジットカード決済でこのゲストハウスの予約をしたことは間違いない。しかし、自分ではキャンセル操作をした覚えはないし、何が起きているのか理解できていない」

スマートフォンの画面を見せてくれた中国人旅行者は、困惑の表情を浮かべ、共用部のリビングに立ちすくんでいた。

到着時間が空欄なので自動キャンセル?

その後、彼は予約サイトの中国語サポートセンターに電話をかけて事情の確認を始めた。やりとりは10分以上にわたって続けられていたが、最終的には、その場で現金精算をすることで騒動は収束した。

彼がサポートセンターから説明された原因はこうだった。

予約サイトに宿の到着時間を入力しなかったことから、システム側が「宿泊者が予約を行った宿泊施設に現れなかった」と判断し、自動的にキャンセル扱いになった可能性があるというのだ。真偽は確認できなかったが、少なくとも旅行者本人に悪意があったわけではなさそうだった。

近年、日本でインバウンド旅行者が急増している背景には、日本政府が進めてきた観光立国政策がある。始まりは、2003年の小泉純一郎政権時の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」だ。

当時、年間で500万人余りだったインバウンド旅行者は、その後、観光庁の発足や、ビザ要件の緩和や国際線の拡充などが進んだ結果、2013年には1000万人を突破。コロナ禍によって一時は激減したものの、2025年には4000万人を超え過去最高を更新。政府は2030年には6000万人という目標を掲げている。

【図表1】訪日観光客の推移(1990~2025年)
日本政府観光局「年別 訪日外客数、出国日本人数の推移(1964年―2025年)」より編集部がGeminiで作成