都心の「蒸暑アイランド」という落とし穴
都市部で気温が上がるヒートアイランド現象は、よく知られています。しかし、東京都の研究が浮き彫りにしたのは、それだけではありませんでした。都心ではWBGTそのものが高くなる、いわば「蒸暑アイランド」とも呼ぶべき現象が示唆されたのです(松本、2022)。
実際、海に面した湾岸部では、内陸部より日最高気温が低いにもかかわらず、湿度が高いためにWBGTは内陸部と変わらず、高齢者の発症率にも差が見られない場合があると報告されています。「気温が低いから安全」とは、必ずしも言えないのです。
日が沈んでも安心してはいけない理由
そして、夜です。
WBGTは夜になれば下がるのが普通です。ところが、それでも夜間に熱中症で運ばれる人は後を絶ちません。
大阪市の夜間の熱中症を分析した研究では、一日じゅう海側からの風が吹き続け、夜になっても暑さが抜けない気象の日に、夜間の熱中症が最も多くなることが示されています。日中に浴びた暑さが「履歴」として身体にも部屋にも積み重なり、夜まで持ち越されるのです(玉井・澤井、2014)。
先ほどの東京都の研究でも、成人や高齢者は深夜から早朝にかけても発症しており、とくに早朝は高齢者の発症率がやや高いことが示されています(松本、2022)。「夜になったから大丈夫」とは、必ずしも言えないのです。
遮ることは、今日からできる
救急搬送される人数は、熱中症被害の氷山の一角にすぎません。自力で医療機関を受診した人まで含めれば年間およそ70万人、木陰で休んで耐えた軽症者まで含めれば1000万人を超えるという推計もあります。
だからこそ、部屋という「入れ物」を整えることには大きな意味があります。
まず、西日を遮ること。カーテンだけでは不十分で、外付けのシェードや簾を使い、窓の外側で光を止めるのが効果的だと、建築の専門家も指摘しています。窓の内側に入ってから遮っても、熱はすでに部屋の中に入ってしまっているからです。
そして、気温と湿度を数字で把握し、危険な水準では迷わずエアコンを使うこと。夜間も例外ではありません。さらに、前回でも紹介したように、日中の運動や作業で上昇した深部体温を下げることも大切です。そのためには、流水や保冷材などで10分以上、手足を冷やしてあげることも心掛けるといいでしょう。
高齢のご家族がいる家庭では、部屋の向きと西日対策を、いま一度確認しておいてください。血管を内側から守る備えと、部屋を外側から守る工夫。その両輪が、屋内の熱中症から命を守ります。
【参考文献】
玉井昌宏・澤井健志(2014)「地上風向の日変動パターンを用いた夜間の熱中症危険度指標の考察」土木学会論文集G(環境),70(7),III_381–III_388.
松本太(2022)「東京都における高齢者の熱中症発生に関する地域的特徴」日本生気象学会雑誌,59(3・4),67–77.
渡邊慎一・齊藤宏之・土川忠浩・佐古井智紀(2023)「日本生気象学会『日常生活における熱中症予防指針』に掲載されている室内用のWBGT簡易推定図の開発経緯とその検証」日本生気象学会雑誌,60(3・4),55–65.
日本生気象学会(2022)「日常生活における熱中症予防指針」Ver.4.
角田晃啓・福田歩未・工藤慎太郎(2024)大阪市建築現場作業員における熱中症認識と予防の実態調査.森ノ宮医療大学紀要,18,13–23.

