「南向き」より危ないのは…

屋内の熱中症には、部屋の構造も大きく関係しています。

意外に思われるかもしれませんが、日中に日が差し込む南向きの部屋よりも、夕方に注意すべきなのは西向きの部屋です。

その理由は、光の質にあります。日中の直射光よりも、夕方の西日のほうが波長の長い赤外線を多く含んでいます。

太陽の高度が低くなり、西側の窓から浅い角度で部屋の奥まで光が差し込むため、西に窓のある部屋は、夕方になると室内が急激に温まります。まるで、赤外線ストーブの中に入り込んでしまったような状態です。

日が傾いて「もう涼しくなるだろう」と気を緩めた頃に、部屋そのものが熱源に変わる。これが、夕方に屋内で倒れる人が出る一因です。

そこで、室内気温の上昇を抑制し熱中症の予防を図るために、暑さで有名な埼玉県熊谷市では、6年前から住居に外付け日よけを設置する市民に対し、購入費用の一部を交付する形で補助金の支給を実施しています。このような取り組みが全国規模で広がると、もう少し熱中症で搬送される人も減るでしょう。

部屋が熱源になると、身体の中で何が起きるか

室温が上がり、深部体温が上がると、身体の中では何が起きているのでしょうか。

私たちの研究で見えてきたのは、熱中症が「血管の病気」だという事実です。体温が上がって血液そのものが温まると、その熱が、血管の内側を覆う血管内皮細胞を内側から焼くように傷つけていきます。とりわけ静脈側の内皮細胞は熱に弱く、傷むと血液がうまく心臓に戻れなくなり、全身の循環が滞り始めます。

このとき、頼みの綱となるのが汗の蒸発による冷却です。

ところが湿度が高いと、汗はかいても蒸発せず、体温を下げる働きが十分に果たせません。西日で温まり、しかも湿気のこもった部屋は、身体にとって「熱を捨てる出口」がふさがれた状態なのです。

ヒスパニック系のカップルが暑さに参っている
写真=iStock.com/ Antonio_Diaz
※写真はイメージです

気温だけでは足りない、実は湿度も重要要素

では、自分の部屋が危険な状態にあるかどうかを、どう判断すればよいのでしょうか。

ここで役立つのが、WBGT(暑さ指数)という考え方です。これは気温だけでなく、湿度や輻射(放射)熱まで加味した指標で、日本生気象学会の指針では、31℃以上を「危険」、28〜31℃を「厳重警戒」としています。「危険」の水準では、高齢者は安静にしていても熱中症を発症する危険が大きく、外出を避けて涼しい室内へ移るよう促されています(渡邊ほか、2023)。

本来、WBGTは黒球のついた専用の測定器で測るものですが、一般家庭にはまだ普及していません。そこで同学会は、気温と湿度から室内のWBGTをおおまかに読み取れる「室内用の簡易推定図」を公開しています(日本生気象学会、2022)。

気温がさほど高くなくても、湿度が高ければ危険な水準に入ることがあります。これは、いま述べた「汗が蒸発できない」という身体の側の事情と、そのまま重なります。