退職を決意すると、仕事の引き継ぎや事務的な手続き、次の仕事の準備やお金の算段など、考えなければならないことが一度に押し寄せます。健康の優先順位は後回しになりがちですが、40〜60代は、これまでの暮らしぶりのツケが体のあちこちに表れ始める年代です。人生の節目を前に、健康に意識を向けることも大切です。
産業医・内科医、MEDU代表取締役。YouTubeチャンネル「予防医学ch/医師監修 ウチカラクリニック」を開設、現在のチャンネル登録者数は110万人を超える。著書に『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』(ダイヤモンド社)ほか。
会社の健康診断には実施時期が決まっており、退職までの間に受けられるとは限りません。「いまは特に痛いところもないし、転職の準備で慌ただしい。健康のことは会社を辞めてからでもいいだろう」と後回しにする人もいますが、退職すると、勤務先の健康保険の資格は原則として退職日の翌日に失います。次の勤務先の健康保険へすぐに加入しない場合は、①現在の健康保険を任意継続する(最長2年間)、②国民健康保険(国保)に入る、③家族の健康保険の被扶養者になる、の3つが主な選択肢です。保険料や健保独自の給付・健診補助は異なるため、退職前に比較しておいてください。いずれも医療費の3割負担は変わりませんし、市区町村の制度ではがん検診も受けられます。40〜74歳は特定健診が年1回あり、基本的な項目は押さえられます。これだけ見れば「後回しでもいい」と思うかもしれません。
しかし、会社に所属している間だけ受けられる“会社員の健康特権”があるのです。たとえば「定期健康診断」は労働安全衛生法で会社に義務づけられており、費用は全額会社負担です。受診時間を就業時間扱いとする会社もありますし、人間ドック(法定健診+がん検診)には健康保険組合や会社から補助が出ます。数万円かかる検査が数千円の自己負担で受けられることも珍しくありません。
年に一度のストレスチェックや、社内の健康相談窓口は在職中だけの制度です。さらに健康診断の結果、数値に問題があれば産業医や保健師が声がけまでしてくれます。治療にかかった医療費についても、健康保険組合には「付加給付」という仕組みがあり、自己負担が一定額を超えた分は払い戻されます。会社の定期健診や産業医、社内の健康相談は退職によって利用できなくなります。また、人間ドックの補助や付加給付を任意継続後も利用できるかは、健康保険組合によって異なります。そして任意継続は、退職日の翌日から20日以内に申請しなければならないのにも注意が必要です。
退職日までにすべきことは、次の3ステップです。まず、会社の総務や人事、健康保険組合に問い合わせて、人間ドックの補助が使えるか、付加給付の制度はどうなっているかを確かめてください。補助の上限額と申請の期限、傷病手当金の扱いも確認しましょう。
次に、産業医や保健師に、健康診断で手つかずとなっている項目、必要な追加検査、退職後にかかる医療機関について相談してください。過去の健診結果を持参すると話が早く進みます。
最後に、人間ドックを受診し、要精密検査の指摘があれば消化してください。また、治療中の病気があれば、主治医に退職を伝えておきましょう。
健康診断が課してくれる片付けるべき「宿題」
退職前の限られた期間で健康を見直すなら、まず自分の体の経年変化を把握してください。「自分の会社はこんな高額な検査を補助していたのか。それならこの機会に使っておこう」と金額でモトを取りにいくのもアリですが、優先すべきは検査の追加ではありません。過去3年から5年分の健康診断の結果を並べて数値がどう動いてきたかを見ると、高額な検査を1つ足すよりはるかに多くのことがわかります。
40〜50歳のうちに治療・改善しておけばよかったと最も後悔するものは、「サイレントキラー」と呼ばれる、体の不調として表れない病気。大きな病気は罹ったことがないのに、実は健診結果にはD判定(要再検査)が何年も出ていてかなり進行してしまっている、ということもしばしばあります。
セルフチェックのポイントとして、まずは血圧、HbA1c(血糖)、LDLコレステロール(脂質)の3つを見てみましょう。この3つの数値で、脳卒中と心筋梗塞になるリスクはおおむね決まります。血圧は上が140・下が90を超えていないか、HbA1cは6.5%を超えていないか、LDLコレステロールは140を超えていないかを見ると良いでしょう。
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