「期待に応えてきた人」ほど迷いやすい
別の角度から、ミドルエイジになって承認欲求が強くなる人がいます。それは、それまで自己決定の少ない生き方をしてきた人です。
これまで親や周囲の人の期待に応え、世間体を気にして生きてきた人ほど、評価されないと不安で仕方がなくなり、「これでよかったのか」と迷ってしまう。こちらは男性より、女性に表れやすい傾向があります。
特に私が生まれ育った九州をはじめ、昭和、平成を経て令和の今も男尊女卑的な価値観が根強く残っている地域では、進学、就職、結婚などの節目に女性だからこそのプレッシャーを受けやすい。有形無形の力により、本人の自己決定が妨げられてしまうのです。
・本当は理系に進みたかったけど、親が反対したから……
・都会に出て働こうと考えていたけど、学校の紹介で地元の会社に……
・自分はまだ結婚したいと思ってなかったけど、まわりが適齢期だというから……
自分で決められなかったという心のわだかまりは、時間を経たからといって簡単に解けるものではありません。子育てや仕事に忙しくしている間は胸の内に隠れていても、ぽっかり時間が空くと顔を出してきます。
自己決定が少なかった人ほど承認欲求が強くなりがちなのは、自分の意志より誰かに評価されることを優先してきたから。他人から認められる状態に依存してしまうのです。
まずは「認められたい自分」を認める
Dさん(49歳・女性、公務員)もそうでした。仕事は生活のために続けている。「私の価値って何だろう?」と自問自答しているけど、こんな悩みを打ち明けられる友だちもいない……。実母との関係が深く、若いころから進学、就職の選択に口を挟まれ、自分で人生を切り開いてきたという実感がありません。上京してからは必死に働いてきましたが、「自分で決めたかった」という思いは残ったまま。
しかし、頼れる相手だった実母の介護が始まり関係が変化。胸の奥でフタをしていた「歩んでいたかもしれない別の人生」へのモヤモヤが顔を出し、悩んでいるのです。
「評価されたい」「認められたい」という思いの奥には、「自分の存在を肯定してほしい」「自分を大切に思ってほしい」「自分を必要としてほしい」という気持ちがあります。
繰り返しになりますが、承認欲求自体は悪いものではありません。問題は、その欲求に振り回されてしまうことです。
認められたいという気持ちがあることを、まずは認めましょう。さびしいと感じていること、人生に後悔があってモヤモヤしていることを、自分自身に対して認めましょう。そして、その感情を無理に消そうとせず、「ああ、今、自分は承認を求めているんだな」と、少し距離を置いて観察してみる。そうすることで、承認欲求に振り回されるのではなく、うまくつき合っていくことができるようになります。
福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。
