要因⑤定年後を意識→お金の不安
【[要因⑤]老後生活への経済的な不安が束縛を生む】
「老後資金2000万円問題」が話題になって以来、老後の暮らしに蓄えはどのくらい必要なのかという議論が続いています。30代、40代前半まではニュースの一つにすぎなかった老後資金の話も、ミドルエイジになると現実味を帯びてきます。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(2023年)」によると、50代単身世帯の金融資産保有額の平均値は1391万円ですが、中央値だと80万円。50代の二人以上世帯の平均値は1147万円で、中央値は300万円です。
定年後の生活を意識し始めたとき、「年金だけで暮らしていけるのか」「貯金は足りているのか」「もし配偶者と死別したら、一人で生きていけるのか」といった不安が出てくるのは当然のことだといえます。
こうした経済的な不安が「今の仕事を辞められない」という束縛や、「もう新しいことには挑戦できない」という自己抑制を生み出すのです。
「本当はやりたいことがあるけど、お金のことを考えると……」と一歩を踏み出せない。
これもまた、中年の危機の要因となるぼんやりとした不安です。
「人生の転換点」を知らせるサイン
こうした要因のいくつかが重なると、中年の危機の症状ともいえる次のような状態に陥ります。
・何となく心がいつも重い
・意欲の低下、気力がわいてこない
・隠せない体力や記憶力の衰え
・「あのときああしていれば」という過去の選択への後悔
・「これが望んでいた人生?」と過去を振り返って焦る
・「自分なんか……」と自己評価が低下する
・キャリアや人間関係に対する疑念や不満(怒りっぽさ、ひがみっぽさを伴う)
・「孤独でも大丈夫だったけど、やっぱり……」など、将来への漠然とした不安
こう並べると、まるで病気の症状のように見えるかもしれません。
でも、先ほどもお伝えしたように、中年の危機は男女問わず約8割の人が経験する通過点です。第二の思春期に入ったこと、人生の転換期を迎えたことを知らせるサインだと解釈しましょう。
「若いころの自分と、今の自分は違う」
「これまで大切にしてきたものと、これから大切にしたいものが変わろうとしている」
そのことに心が気づき始めているからこそ、自己認識に揺らぎが生まれるのです。
英語で危機を意味する「crisis(クライシス)」という言葉は、ギリシャ語の「krisis(決断、転換点)」に由来します。つまり、中年の危機とは人生の転換点であり、より充実した人生の後半戦を迎えるチャンスでもあるのです。
福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。
