良質な油を適量取ることの重要性
油を控えすぎると、どうなるでしょうか。
満足感が得られずに間食が増えたり、糖質やタンパク質に偏った食事になったりすることもあります。
逆に、良質な油を適量取り入れると、食事の満足度が上がり、結果として食べすぎを防ぐ効果もあるのです。
たとえば、青魚に多いオメガ3系脂肪酸は、血液や心臓の健康に良いことが科学的に証明されています(*2)。オリーブオイルのオレイン酸は血管を守り(*3)、ナッツ類の脂質には抗酸化作用が認められています(*4)。
一方で、マーガリンやファットスプレッドなどの油脂加工食品に含まれることがある「トランス脂肪酸」は、血管に負担をかける可能性があるため、とりすぎには注意が必要とされています(*5)。
しかし、油そのものを恐れる必要はありません。大切なのは、「油の種類」と「使い方」です。
心の健康にもつながる油の上手な使い方
たとえば、唐揚げやとんかつを食べたとき、「あぁ、おいしい」と感じるのは、油が食材の旨味を閉じ込め、表面をカリッと香ばしく仕上げているからです。天ぷらの衣がサクサクと軽いのも、油の温度と時間を適切にコントロールすることで生まれる、職人技の結晶です。
サラダにオリーブオイルをひとかけするだけで、野菜の味が引き立ち、満足感が生まれます。焼き魚にバターを少し添えれば、香りと風味が加わり、食事がもっと楽しくなります。
油を上手に使うことは、単にカロリーをとること以上に、味覚や満足感、ひいては心の健康にもつながるのです。
ちなみに、ご飯を炊くときに小さじ1杯程度の油を加えると、冷めてもご飯がかたくなりにくいのはご存じでしょうか。
ご飯が冷めてかたくなるのは、でんぷんの「老化」という現象ですが、油にはこの老化を防ぐ効果があるのです。お弁当用のご飯には特に最適な裏技ですので、機会があればぜひ試してみてください。
数字や理論も大切ですが、香りや食感、満足感という感覚もまた、人間にとって不可欠な栄養なのです。
油は、食卓に「おいしさ」を届け、体に「元気」をくれます。
唐揚げのサクサク感、バターの香り、オリーブオイルの風味――それらはすべて、油が作り出す食の喜びです。油を避けるのではなく、上手に選び、楽しむ。そうすることで、食事はもっと豊かになり、心も体も「潤って」いくのです。
【参考文献】
*1 Seidelmann, S.B., Claggett, B., Cheng, S., Henglin, M., Shah, A., Steffen, L. M., Folsom, A. R., Rimm, E. B., Willett, W. C., & Solomon, S. D.(2018). Dietary carbohydrate intake and mortality: A prospective cohort study and meta-analysis. The Lancet Public Health, 3(9), e419-e428.
*2 Mozaffarian, D., & Wu, J. H. (2011). Omega-3 fatty acids and cardiovascular disease: effects on risk factors, molecular pathways, and clinical events. Journal of the American College of Cardiology, 58(20), 2047-2067.
*3 Estruch, R., Ros, E., Salas-Salvadó, J., Covas, M., Corella, D., Arós, F., Gómez-Gracia, E., Ruiz-Gutiérrez, V., Fiol, M., Lapetra, J., Lamuela-Raventos, R. M., Serra-Majem, L., Pintó, X., Basora, J., Muñoz, M. A., Sorlí, J. V., Martínez, J. A., & Martínez-González, M. A. (2013). Primary prevention of cardiovascular disease with a mediterranean diet. New England Journal of Medicine, 368(14), 1279-1290.
*4 Bao, Y., Han, J., Hu, F. B., Giovannucci, E. L., Stampfer, M. J., Willett, W. C., & Fuchs, C. S.(2013). Association of nut consumption with total and cause-specific mortality. New England Journal of Medicine, 369(21), 2001-2011.
*5 World Health Organization.(2018). REPLACE trans fat: An action package to eliminate industrially produced trans-fatty acids. Geneva: WHO.
実践女子大学教授・博士(農学)。富山県生まれ。静岡大学農学部卒業、筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了。富山県農林水産総合技術センター食品研究所、東京医療保健大学を経て現職。2017年日本食品科学工学会奨励賞受賞。専門は食品科学。食の科学を探求しながら、食べる喜びと健康の両立について思考を巡らす。好物は牛丼。
