「偏差値とゴマすりのうまさは比例します」。厚生労働省の元キャリア官僚として、東大法学部出身の秀才に囲まれてきた兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科教授・中野雅至氏はこう断言する。大物政治家たちを籠絡するエリートたちの技を開陳しよう。

仕事をスムーズに進めるためには、上司、部下、取引先などの関係者を納得させることが大切です。

たとえば、経済産業省の若手官僚がエコ産業の一大プロジェクトを企画したとする。そのプランが非常に優れており、国益になることが明白だとしましょう。しかし、実際にプロジェクトの予算を得るためには、うるさい政治家やマスコミ、圧力団体を説得しなければ始まらない。そのとき、上から目線の恫喝では説得できません。同意を得るためには論理的な説明が必要ですが、それでも足りません。ここで重要になるのがゴマすりです。

腰を折り曲げ頭を下げ、相手をほめたたえて気持ちよくさせる。このゴマすり力は官僚の世界だけではなく、民間企業での生き残りや出世レースにも有効です。その理由は、第一に上司受けがよいこと。経験上、ゴマすり上手で左遷された人を見たことがありません。次に、ほめ上手は敵をつくらないこと。みんなから慕われる人が重宝されるのが日本社会なのです。最後に、ゴマすり上手が1人いると組織全体が明るい雰囲気になること。職場はその人を中心にして盛り上がるようになるでしょう。

以上の理由で、結果としてゴマすり上手は出世します。私は14年間、厚生労働省のキャリア官僚として働きました。頭脳明晰な官僚を何人も見てきましたが、ゴマすりが下手な人は課長止まり。その上のポジションまでいく人は必ずといっていいほどゴマすり上手でした。

不確実な現代においては、学歴や経歴、実績といった定量的能力よりもコミュニケーション能力という定性的能力が大きな武器になる。なかでもゴマすり力は究極のサバイバル能力なのです。