「年齢」というファクター

それでも「再分配前所得のジニ係数は上がっているのではないか」と思うかもしれません。しかしこのデータは、年齢の効果を考慮していません。

20代のときはみんな貧乏でも、年齢とともに才能、努力、運などによって所得の差は開いていくでしょう。すなわち、社会全体が高齢化するにつれてジニ係数は自然に上がっていくと考えられます。

実際、再分配前の世帯員の年齢階級別ジニ係数は、もっとも低い25~29歳の0.2997に対し、75歳以上では0.7201にもなります。ほとんどの高齢者が年金のみで生活する一方、一部の高齢者が株式や不動産からの収入、あるいは働いて得た収入などで、全体の所得の大半を得ているわけです。

そこで「報告書」では、2021年調査と2023年調査を、年齢を調整して比較しています。調整前のジニ係数は21年が0.5700、23年0.5855で、2年間で2.7%上がっていますが、高齢化の効果を調整すると23年のジニ係数は0.5765となり、21年(0.5700)とほとんど変わらなくなりました。

以上のように、少なくとも所得においては、「日本の格差が拡大している」とはいえません。

みんなが平等に貧しくなった

誰もが「格差拡大」を叫ぶなかで、「日本の格差は拡大していない」というのは常識に反しますが、他の調査でも同じ結果が出ています。

楡井誠「点検・日本の格差(上) 分配の起点は経営者の競争」(日本経済新聞2026年3月23日)によれば、過去30年間の給与所得の推移を見ると、2020年の金額で標準化した中央値は約400万円、上位10%は約800万円、上位1%は約1600万円でほとんど動きがありません。

この調査で驚くのは、給与の中央値が30年間で9%も下落したことです。長期的には賃金は増えていくはずですが、「失われた30年」で平均的な会社員が受け取る給与は逆に減っていたのです。

ところがそれでも、実質GDPは17%増大し、国民所得に占める雇用者報酬も約70%で安定していました。

給与の中央値が減っているのになぜ年率約0.5%の所得成長が実現したかというと、世帯主の賃金が低下したことで、家計が働き手を増やしてそれを補おうとしたからです。その結果、共働き世帯の割合は2000年の約4割から直近の6割弱まで高まりました。