仲間であって、女とは思っていない

もしミサトさんが期待できない部下だったら、きっとここまでは言わないでしょう。

都内で働く別の女性は、10年勤めた会社をやめました。表向きは結婚が理由ですが、別に退職勧告を受けたわけではありません。

「上司から転勤を言い渡されたからです。東京の人と結婚するのを知っているのに、なぜ今の時期の転勤を配慮してくれないのか?」

上司にとってみれば「転勤=成長の機会」です。悪気なく彼女に成長の機会を与えた。それだけです。しかし女性にしてみれば30代の結婚、そして妊娠、という大事な時期です。 転勤したら別居生活……妊娠したい大事な時期を離れて過ごしたくない。

「上司は私を自分の奥さんと同じ女とは思ってくれていないのですよね」

彼らは今までの男性用のキャリアプランに従って、女性部下を育てようとしているにすぎない。専業主婦の奥さんがいる上司は、仕事ができる女性を大事な仕事仲間だと思っていますが、奥さんと同じ女とは思っていない。まして妊娠や出産をどれだけ女性が大事に思っているか想像できないのです。会社の仲間は、いわば同じ宗教を信じている同士と思っています。その宗教の聖書には「プライベートよりも常に仕事が優先」と書いてある。妊娠、出産の文字はないのです。

しかし悪気がなくても、その「無知」と「想像力のなさ」は罪です。「無知」は妊娠、出産の適齢期に関する無知ですね。そして想像力のなさも大問題です。

「こんなにワーキングマザーが増えるとは思わなかった。女性のローパフォーマーが増えて、会社にはマイナスだ」という状況は、そもそも制度を作った男性の想像力のなさが招いたもの。「仕事が優先の女性は仕事のチャンスを失うようなことはしないだろう」と思っている。そして「子育て中の女性がこんなに会社に残るとは思わなかった」という想像力のなさです。産休・育休中の女性が大量発生しても大丈夫な制度を作っておかなかったのです。