15冊の歌集はそれぞれに作風が違う
『火中蓮』の発行は昭和54(1979)年、春日さん53歳の時だ。この『火中蓮』は『北国断片』の「生活的、此岸的」から、「芸術的、彼岸的」へ転じた1冊だと高く評された。
「水甕」の代表を務める娘のいづみさんは、歌人としての母をこう語る。
「ここから50年。全部で歌集が、15冊。1冊ずつ、少しずつ変わっていくんですよ。そういう歌人は、ちょっと珍しいと思います。私も今、歌を作っていて、変えようたって、そんなに簡単には変わらない」
99歳の歌集、『宇宙卵』
2025年9月に出版された、第15歌集『宇宙卵』には90代後半を生きる春日さんのさまざまな日常が、いろいろな角度から切り取られている。
自室の窓からきっと目を凝らす植物や木々、台所でその手で調理するいろいろな野菜、酸素濃度を測る機械、歩行器、入院中の病室など、99歳のさまざまな日常から、歌が鮮やかに立ち昇る。31文字に結実しているのは思いや祈りばかりか、揺らぎもそのままに、不戦への強い思い、歌人としての生に発破をかけ、甘えを許さず鼓舞する姿……、ありとあらゆるシーンが生き生きと目の前に浮上する。歌という営みは、なんと豊穣な世界を見せてくれるものなのか。
歌人としての偉業を見れば、“大家”になってもおかしくない。でも春日さんは限りなく、自分から逸脱しよう、はみ出ていこうともがき続ける。齢、99にして!
「飽きっぽいのかもしれない」とおちゃらけて笑うけれど、間違いなく曇りなき眼で「その先」を春日さんは冷静に見据えている。それが、歌人としての生を貫くことなのか。
書くことの、「覚悟」の強さに圧倒される。
タイトルの『宇宙卵』には、特別な思いがある。
「私たち、本当に混沌としたところから始まっているんです。先祖からずーっとつながって。宇宙卵とは、可能性の卵。なるべく言葉を産むようにして、ポロリポロリと宇宙卵を残していかなきゃ」