「うまい、やすい、ごゆっくり」と女子高生の宿題

こうして、今も吉野家の新規出店時の主力フォーマットになっているC&C(Cooking&Comfort)モデルが誕生した。カウンターを走り回るフルサービスを止める代わりに、そこで生まれた余裕時間を使って、これまで以上に店内調理(Cooking)にこだわって、中食ではなく外食ならではの美味しさをご提供する。そして、お客様には空間の快適さ(Comfort)を感じていただけるようにする。

こうして2016年3月、「うまい、やすい、ごゆっくり」を店舗全体で表現した店舗「黒吉野家」がオープンした。初月から売上改装前比150%という好調なスタートを切ることができ、狙いとしていた女性顧客比率も25%を超えた。これは当時の吉野家としては画期的な数字だった。

労働生産性の向上は実現できていなかったが、従業員の歩数計測の結果は、改装前に対して40%減少。そこで生まれた余裕が接客サービスの向上にもつながり、顧客アンケートの結果も軒並み向上していた。初動こそ従業員には戸惑いもあったが、ひと月もすると空気が変わる。「既存店よりも身体が楽」「落ち着いて仕事ができる」という好意的な評価のほうが増えていった。

そんなあるとき、店長が嬉しそうにこんな話を聞かせてくれた。

「社長! うちの店で放課後に宿題をしていた女子高生がいたんですよ! 僕も吉野家に入って長いですが、そんな光景初めて見ました!」

僕だってそんな光景は見たことがない。客層の変化に大きな手応えを感じた。

河村泰貴『どうしたらバイトから社長になれたんですか?』(プレジデント社)
河村泰貴『どうしたらバイトから社長になれたんですか?』(プレジデント社)

結果、僕たちは、恵比寿での実験開始から1年間で約15店舗ほどに拡大させていった。

さらに、10年の歳月をかけてコツコツと女性顧客比率を28.1%まで高めることができた。目標に掲げた30%にはわずかに届かなかったものの、それでも倍増させることはできた。

東京にはまだカウンターだけの店舗も存在するが、全国的にはテーブル席を有している店舗が9割以上だ。

もはや、吉野家は、かつての「カウンターで男性が牛丼を掻き込む店」ではなくなったのだ。

※肩書は当時。2026年5月26日より株式会社吉野家名誉会長