単なる「買い物の街」ではないのです
「好きなこと」によるつながりの力が発揮され、その価値を強く実感した出来事がありました。2011年3月の大震災直後のことです。この時、日本全国各地でのコスプレイベントが中止になりました。被災地では、施設が壊れためにやむをえずイベントが開催できなくなり、その他の地域でも、自粛ムードや震災の酷い現実に耐えかねて心身が病んでしまった関係者もいたために、イベント中止が相次いだのです。
そんな中、私の友人である台湾人コスプレイヤーが、迅速に台湾や香港のコスプレイヤーに呼びかけ、日本への応援メッセージ動画を制作してくれました。タイトルは「いつか笑顔、いつも笑顔~Pray For JAPAN from Taiwan cosplayers」で、YouTubeなどの動画共有サイトで今でも視聴できます(http://www.youtube.com/watch?v=KQ2DBUu8A_g)。この動画は2011年5月にネット上で公開され、私も秋葉原の免税店前で上映させてもらいました。この動画を見たコスプレイヤーやコスプレファンからは、とても励まされたと多くの反響がありました。
その後、震災で休館していた仙台駅前の商業施設がその年の11月に営業を再開しました。すると、この施設で催されていたコスプレイベントの再開を求める問い合わせが増加し、翌年2月にイベントが開催されました。地元のコスプレイヤーたちにとって、このイベント再開はとても待ち遠しかったようです。当日は、東京からの参加者も含め、約200人が集まりました。参加者の多くは10代20代の女の子たちですが、彼女たちが喜び、元気になってくれることは、家族や友人たちだけでなく、周りにいる人たちにも嬉しいことだと思うのです。
コスプレは、決して他人の役にたたないものでもなく、なくても誰も困らないものでもなかったのです。今の私には自信を持ってそう言えます。「好きなこと」は、それでつながっている人たちにとっても、さらにその人たちとつながっている「好きなこと」とは無関係な人たちにも、とても大切で価値のあるものなのです。
「好きなこと」でのつながりをさらに価値あるものにしてみようと、私が秋葉原で試みている実験の場が、秋葉原の趣味文化についての勉強会「アキハバラを、編む」(連載第26回《この街は「観光立国」のモデル(前篇)》 http://president.jp/articles/-/10694?page=2 参照)なのです。そこでは毎回、一見まったく無関係な2つの「好きなこと」を選んで、その楽しみについて参加者と話し合います。たとえば、電子工作とカレー、あるときはトレーディングカードゲームとミリタリー、ドールと異性装。
異なる2つの「好きなこと」を組み合わせることには、意味があります。秋葉原には、それぞれの「好きなこと」でつながった人たちがすでにいます。それは1つの「好きなこと」の平面上で多くの点がつながり、線をなしている状態です。私は平面を組み合わせて、さらに広がりのある空間を創りだしたいと考えています。それは、人々がつながり、さまざまな「好きなこと」を共有して、さらに新しい「好きなこと」を創りだせるコミュニティという空間です。
秋葉原で10年前に出会ったコスプレイヤーにも、これから初めて秋葉原に訪れる人たちにも、たった1つだけと言わずに、たくさんの「好きなこと」を秋葉原で見つけ、さまざまな仲間たちとつながり、躊躇することなく楽しんでほしい。そうすれば、今まで知り得なかった新しい視点や、より深い考え方に出会えるでしょう。秋葉原は単なる買い物の街ではありません。あなたも「好きなこと」でつながり、元気になれる街なのです。
■次回予告
梅本先生の連載をご愛読戴きありがとうございました。しかし俺たちの戦いはこれからです。まだ見ぬ明日に向かって旅立つべく、次回は番外特別編を掲載します。次回《秋葉原☆マネタイズ 【番外特別編】桃井はるこさん、秋葉原を語る》(12月3日更新予定)。元祖「アキバの女王」への濃いインタビュー、お楽しみに。(編集部)