社員を自分の教え子のように…

2000年代初めに入社した元スズキ社員は言う。

「配分のしわ寄せは、社員に来ていたと思う。他社と比べて、スズキの給料はとても低かったのです。それでも、みんな辞めないのは、修会長にカリスマ性があって、この人についていこうと考えたからです」

会社と社員が金だけでつながるブラック企業に共通するのは、社員をモノとしか捉えていない点だ。社員の出入りは激しく、そもそも経営者に魅力も能力もない。辞めていく社員は経営者を尊敬してもいない。

比嘉勉は、「修さんは、良くも悪くも昭和の経営者。いつか、給料をたくさん払えるようにする。だから、いまは我慢してくれ、というスタイルだった。若い頃、教員をした経験を持つせいか、社員を自分の教え子のように捉えていた節もあった」と話す。

“外様”が社内とカリスマをつないだ

ワンマン経営の特徴だが、トップに対し周囲はモノを言えなくなっていく。

副代理店大会の懇親会では、一番後方のテーブルに鈴木修は着座するが、比嘉勉によれば「修さんのまわりに座るのは、私や有力な副代理店社長といった社外の“外様”ばかり。スズキの関係者は修さんとは違うテーブルに座る。このため、『修会長に、これを進言して欲しい』といったスズキ幹部の依頼をけっこう受けたのです」と指摘する。

スズキ幹部は、トップの鈴木修に対し面と向かってモノが言えない。このため、比嘉のような外部の人間を通して、本意を伝えていく。

鈴木修の超長期政権が維持されたのは、本人がスズキを成長させたことが最大の理由だ。だが、構造的には有力な外様との良好な関係を構築したことは大きかった。創業者から二代目、三代目と引き継がれながらもだ。外様の当主は代替わりしても、立場の変わらない鈴木修はボンクラ会のような施策を駆使し彼らを抱え込んでいた。

比嘉家や石黒家など有力な外様は、代々にわたり、スズキ社内とカリスマをつなぐ“伝達役”の役割を局面によっては担っていた。