「個別株投資は難しい」、投資をする人にもしない人にも、そう考え手を出さない人がいるが、「さわかみ投信」で世界初の投信積み立ての仕組みをつくった澤上篤人さんは、個別株投資をすすめる。なぜ“投信のプロ”が個別株をすすめるのか――その理由を、澤上流「個別株の選び方」とともに解説する。
これからは「個別株投資」の時代
これまで投資経験がなく、新NISAをきっかけにインデックス投資を始めたという人の中には、「個別株投資は難しいから自分にはできない」と考えている人もいるだろう。決してそんなことはない。自分が応援したい会社を見つけて、株価が下がったときに買うだけでいい。会社の業績を気にする必要もない。
そもそも「会社を応援する」ということは、短期投資ではできない。長期投資で長い付き合いとなる。その場合、1年先、2年先の業績を予測しても意味がない。かといって10年先、20年先のことは誰にもわからない。だから、業績の行方を心配する必要はないのだ。
会社を応援するには、2つの方法がある。1つはその会社の商品を買ったり、サービスを利用したりすること。売り上げに貢献することで、その会社の成長を応援することができる。もう1つは株主になること。長期で株式を保有してくれる“応援団”がいると、経営者にとって心強い。
利益だけを目的にしている投資家は株価が下がると容赦なく売ってくる。すると、アクティビストと呼ばれる“物言う株主”が株式を買い占めて経営に口出しをしてくる可能性もある。彼らは短期で利益を得ようとしているので、経営者は長期視点での経営がしにくくなる。多くの個人投資家応援団が株式を保有してくれれば、経営者は10年先、20年先を見据えた経営が可能になる。
また、長期で株主になることは投資家にとって、お金に働いてもらうことにつながる。商品やサービスを利用することで会社を応援してもいいのだが、私は会社を応援しつつお金にも働いてもらうことができる長期投資家になることをすすめている。
応援したい会社をどう見つけるか。具体的な方法は後述するが、見つかったとしてもすぐに投資するのはおすすめできない。買っていいのは「会社がピンチ」のときだ。業績が悪くなったり、株価が下がったりしたときこそ、応援のしがいがあるというものだ。
株価が下がってくると、お金が目的の投資家は次々と売ってくる。損をしたくないからだ。本物の応援団はそんなときにこそ買う。みんなが売っているときに新たに応援団が現れれば、経営者は頑張ろうという気持ちになる。
応援団にしても安い株価で買えるので、利益を得やすくなる。会社を応援しながらお金に働いてもらうというのはそういうことだ。株式市場の暴落は1年に3回か、4回はやってくる。株価が下がるそのときを見逃さないように、応援し続けよう。
毎月1回、会社名を赤ペン、青ペンでマークするだけ
では、応援したい会社はどうやって探せばいいのか。決して難しくないので、今日、実践してみてほしい。家に帰って夕食を食べたり、お風呂に入ったりして、落ち着いたらテーブルの上に1枚の紙と黒、赤、青のペンを用意する。お酒を飲む人は、少し飲んでいい気分になってから始めてもいい。
準備ができたら、自分の生活の中で関わっている会社を黒のペンで紙に書き出してみる。私たちは、日ごろの生活の中でさまざまな会社の商品やサービスを利用している。その会社名をダーッと書き出してみる。やってみるとわかるが、意外にできない。それだけボーッと生きているということだ。
資料など何も見ずに会社名を書き出していく。「これ以上思い出せない」と思ったら、会社名を1つ1つ見直して「この会社は私にとって、社会にとっていい会社か?」と考えていく。
中には「この会社は儲けを優先している」と感じる会社もあるだろう。自分にとって、世の中にとっていい会社で頑張っている会社は、赤のペンで薄くマークしよう。儲け優先のがめつい会社は青のペンでマークする。
この作業を月に1回、半年続けてほしい。月に1回チェックするうちに赤がどんどん濃くなる、青がどんどん濃くなる会社がある一方で、赤が青に変わったり、青が赤に変わったりする会社も出てくるだろう。
半年続けてみると、びっくりするだろう。最初は「自分や社会にとっていい会社だ」と思ったところが、意外に利益優先でがめつい会社であることがわかったりする。反対に最初は「儲け優先の会社だ」と思ったけれど、環境にいい取り組みをしていることがわかったりする。毎月、繰り返すことで日ごろからリストアップした会社を意識するようになり、自然と情報が集まってくる。そうやってさらなる判断材料を得ながら応援したい会社を吟味していくのだ。
実際に投資する会社を決めるときには、感情丸出しで好きな会社を選べばいい。好きな会社でなければ、株価が下がったときに買えないからだ。感情移入できる会社だからこそ、会社がピンチのときに買える。その好きな会社と一緒に頑張っていくのだ。
この方法は私が応援する会社を選ぶときと変わらない。基本的には自分の生活をベースに考えている。ただ私の場合はすでに55年も長期投資を続けているから、たちどころに150社くらいは候補が挙がる。日本の上場企業は3800社くらいあるが、そのうちの150社をずっと追いかけている。海外の会社の中にも、「この会社は頑張っている、応援したい」と感じているところは20~30社はある。しかし、私は日本の会社と日本を応援したいと思っているので、買うのは日本株となる。
“生活の匂いがするお金”は信用できるファンドへ。残りのお金で個別株投資
一緒に頑張っていきたい会社とは当然、長い付き合いになるので、観察をし続けることが大事だ。これが投資の本質といえる。将来をつくっていくのは政治家でも役人でもない。個人の生活であり、それを支える企業のビジネスの2つしかない。この2つは紙の表と裏の関係であるので、切っても切れない。そう考えると、会社もまともな個人投資家に応援してもらえるように頑張らなければいけなくなる。
もちろん、個別株だけで資産を持つのは不安が大きいはずだ。将来のためのお金などの“生活の匂いがするお金”はまともに長期運用してくれる、自分が信用できる投資信託ファンドに預けてしまうといいだろう。
その上で手元に残ったお金で個別株を買い、本物の長期投資を実践してほしい。このとき、短期的な株価の上げ下げは気にしないこと。自分の選んだ会社を応援していくのだから、株価で一喜一憂してはいけない。株価の動きに心を奪われてしまうと応援する気持ちがどこかに行ってしまう。
だからまずは50万円程度の資金で投資する。これも大きな金額だが、50万円程度なら、株価に一喜一憂せずに投資ができるだろう。それを5年ほど続ければ、投資金額が100万円になっても株価の上げ下げを気にせずに保有できるようになるはずだ。
それがいずれ200万円になり、1000万円、2000万円でも平常心で投資できるようになる。5000万円、1億円になっても損益を気にせず投資できるのが本物の投資家といえる。
資産が1億円に達するまでは、応援する会社は3つか4つでいいだろう。分散しすぎると、注意が散漫になるし、買うべきときに買えなくなるからだ。
株価の動きを気にせず投資する資金が本当のリスクマネーといえるわけだが、日本にはまだ少ない。日本の個人資産約2200兆円のうち、半分の約1100兆円が預貯金に眠っている。このうち、100兆円でも意志を持って会社を応援するために投資してくれれば、日本は一気に変わる。日本人は優しい心を持っている。その心優しい気持ちを企業の応援に生かしてほしい。
未来予測は不要。トランプ氏の動向も気にする必要なし
いま多くの人は米大統領のトランプ氏の一挙手一投足を気にしているが、そこに対抗するには経済の勉強をしたり、投資の本を読んだりしなければいけないと考えがちだ。長期投資ならそんな必要はない。真面目に美意識を持って生きていれば、自分の生きざまに合わせて自分のお金が働いてくれると私は思っている。
トランプ政権は永遠に続くわけではない。私たちの人生はもっと長く続いていく。トランプ氏を気にするよりも、自分はどう生きていくかを考えてほしい。そして、日本人として何ができるかを考えてほしい。
経営者も同じ。いまはだらしない経営者が増えて、短期利益を求める株主などに振り回されてしまっている。本物の経営者であれば、短期的な利益追求やマーケットの変動には左右されずに事業への投資をしているはずだ。
一方で、経営者は2期4年あるいは3期6年程度で交代してしまう。だから、会社選びをするときには社長だけで選ばないことも大事といえる。その会社が持つDNAを見る必要がある。
マスコミにもてはやされている経営者が必ずしも優秀だとはいえない。会社の将来について、大風呂敷を広げたにもかかわらず、大した成果を出していない経営者も少なくない。だから、その会社がどんな歴史を歩んできたかを時間の流れで見ると、いい会社かどうかを判断できる。だからこそ、応援し続けるには観察し続けることが大事だといえる。
中には「長期投資ならほったらかしでいい」と言う人もいるが、それはウソ。自分が応援したい会社の進む方向が変わっていないか、常に観察をしなければいけない。一緒にいい社会をつくっていくことこそ、人が生きていく上での責任だと思う。
本物の長期投資を実践していけば、日本が元気になるし、自分も豊かになる。会社をクビになっても慌てる必要はないだろう。しかし、多くの人は国がやってくれる、誰かがやってくれる……と人任せにしている。それでは駄目だ。私たちがどう投資していくかが将来に向けての責任。責任の先に自分も生きている。それを心に刻んで、個別株で本物の長期投資を実践してほしい。
(取材協力=澤上篤人 執筆=向山 勇 撮影=市来朋久)