首都大学東京准教授 水越康介(みずこし・こうすけ)●1978年、兵庫県生まれ。2000年神戸大学経営学部卒、05年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。首都大学東京研究員を経て、07年より現職。専門はマーケティング論、消費者行動論。主な著書として、『企業と市場と観察者』『Q&A マーケティングの基本50』『『仮想経験のデザイン』(共著)『マーケティングをつかむ』(共著)など。

 楽天の参入

2012年7月2日、楽天は電子ブックリーダー「Kobo」を7月19日から発売することを発表した。発売日から少し経ったが、評価はどうだろうか。Koboは楽天が2011年末に自社に買収した電子書籍販売、タブレット端末開発企業であり、きっと長らく計画されてきた電子書籍市場への参入ということになる。

→楽天 ニュースリリース
http://corp.rakuten.co.jp/newsrelease/2012/0702.html

電子書籍リーダーでこのところ注目されてきたのは、まずはアマゾンである。海外ではすでにKindleが大きな市場を形成しつつある。ちょうど先日、新機種の発表があったばかりだ(対抗して、Koboも新機種が海外では発表されている)。日本ではずいぶんと参入が遅れているが、そろそろ販売が開始されるのだろう。

また、こちらも海外だが、GoogleがNexus7というタブレットを開発し、市場参入を始めている。ここに来て電子書籍用のタブレットがずいぶんと増えてきた。既存の競合としては、iPadやNook、それからSONYのReaderもある。

Koboの場合、タブレットそのものの性能からすれば、すでにカラーであり技術的にこなれてきた感のあるKindleが一歩先をいくのだろう。もともと、Kindleはそのビジネスモデルからして画期的だった。通常のタブレットが通信代を収益源としてきたのに対して、通信代を電子書籍の販売価格の中に織り込み、あたかも通信代がかからないかのような仕組みを作り出した。購入した電子書籍はいつの間にかKindleの中にダウンロードされているというわけである。そこに、パソコンも通信の契約もいらない。この辺りの説明は、『iPad VS.キンドル』(西田宗千佳、エンターブレイン、2010)が詳しい。

『iPad VS. キンドル』
西田宗千佳/エンターブレイン/2010年 


 

楽天のKoboでは、通信はwifiを経由して行われるという。ということは、Kindleのようにどこでも通信できるわけではない。機能的にウリとされるソーシャルリーディング機能も興味深いが、機能そのものは今であれば誰でも思いつく程度だ。

そういえば、最近は、みんな二言目にはソーシャル(つながりという意味だろうか)という。そんなにソーシャルが好きだったのだろうか。完全に余談だが、以前『嗤う日本の「ナショナリズム」』(北田暁大、日本放送出版協会、2005)を読んだとき、最近の若者は世界と私が直結し、間の「社会」が抜けているという話があり、とても印象深かった。いつのまにか、「社会」が復活したのかもしれない。

『嗤う日本の「ナショナリズム」』
北田暁大/日本放送出版協会/2005年 


 

いずれにせよ、端末としてはこれからということだろう。むしろ、王道だが、まずはコンテンツを考える必要がある。実際問題として、どういう本が用意されていて、いくらで読むことができるのか。例えば、Kindleの場合、海外では多くの書籍を9.99ドルで販売する仕組みを採用している。これは安い。あるいは、マガジン航 では、コンテンツ以上に電子書店ストアのナヴィゲーションの仕組みを考える必要があるという。Koboの場合、8月時点では小説とマンガがいっしょになっており、さらに通常の文学を探そうとすると、ずいぶんと階層をおりないとたどり着けないという。こちらは、海外のカテゴリをそのまま移行するわけにはいかないことがわかる。