筋トレの常識を変えた「加圧トレーニング」

トレーニングの原則の一つに、「オーバーロードの原則」があります。これはトレーニングによって筋肉を鍛えるためには、日常生活で身体にかかる負荷よりも強い負荷をかける必要があるというものです。

たとえば、私達は、歩いたり椅子から立ち上がったり、日常動作の中でも筋肉を使っています。しかし、若者であれば、これらの動作によって筋肉量が大きく増えることはありません。筋力や筋肉量を増やすためには、「普段よりも速く歩く」「スクワット運動を行う」など、日常生活以上の負荷を筋肉にかけることが必要です。この点からも、筋力トレーニングでは「重い重量」を用い、日常生活よりも大きな力を発揮することで効果が得られると長年、信じられてきました。

しかし、この考え方が2000年以降の研究によって大きく変わったのです。そのきっかけとなったのは、「加圧トレーニング」に関わる一連の研究です。

加圧トレーニングとは、太ももや腕の付け根に専用のバンドを巻き圧力をかけ、血液の循環(血液の流れ)を制限した状態で行う特殊な筋力トレーニングを指しています。また、最大挙上重量の20%という、きわめて軽い重量であっても成長ホルモンが大きく増加すること、トレーニングを継続することで筋肉量と最大筋力がいずれも増加することを証明した論文が、2000年~2002年にかけて次々と発表され注目を集めました(図表4)。

ちなみに、これら一連の研究を実施したのは、東京大学の研究グループでした。

無理をせずに効果を得られる「スロートレーニング」

当初、加圧トレーニングは「変わったトレーニング」として、その危険性を心配する声もあったようです。しかし、その後、研究が進み、今では怪我をした後のリハビリテーションとして病院でも使用されています。

一方、加圧トレーニングでは、専用のバンドの準備やバンドの締め付け圧の管理など経験と知識が必要となり、誰もが手軽に実施できるわけではありません。そこで注目を集めたトレーニング方法が、「スロートレーニング」です。

これは、最大挙上重量の30~50%という軽い重量に対して、動作をゆっくりと行う点が特徴です。たとえば、脚の筋肉を鍛えるスクワットの場合、通常の方法では1秒で腰を落とし、1秒で膝を伸ばすテンポで動作を反復します。一方、スロートレーニングでは3秒かけて腰を落とし、3秒かけて膝を伸ばします。通常の方法は2秒で1回の動作が終了するのに対して、スロートレーニングでは6秒で1回の動作が終了します(図表5)。

イラスト=豊岡絵里子

スロートレーニングの効果を検証した研究では、運動後に成長ホルモンが大きく増加することが示されました。この研究では、スロートレーニングに最大挙上重量の50%という軽い重量を使用しましたが、成長ホルモンの増加量は重い重量(最大挙上重量の80%)を用いた場合と比べて差がありませんでした。