脳の発達には“3つの段階”が存在している
規則正しい生活や睡眠時間に私がこだわる理由は、人間の脳が発達する順序にあります。
人間の脳は、生後約18年かけ、大きく3段階に分かれて発達します。私はこの三つのパートを、発達する順番に「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」と呼んでいます。この順番が変わることは決してありません。最初に発達する「からだの脳」は脳の中心部に位置し、大脳辺縁系や視床下部、中脳などを指します。呼吸や体温調整、寝る、起きる、食べる、体を動かすといった極めて原始的な機能を司る、人間の生命維持装置に当たる部分です。
次に発達するのが、脳の外側を広く覆っている「おりこうさんの脳」です。脳のしわの部分である大脳新皮質を指し、読み書きや計算、記憶、思考、指先を細かく動かす微細運動などをコントロールしています。中心部の「からだの脳」が原始的な動物にも備わっているのに対し、外側部分の「おりこうさんの脳」は、進化の過程で発達した人間らしさを司る機能を担います。そして最後に発達するのが「こころの脳」です。
「おりこうさんの脳」の一部である前頭葉と「からだの脳」をつなぐ神経回路のことを指します。「こころの脳」が発達すると、論理的思考力や問題解決能力、想像力、集中力などが身につき、物事を論理的に考えたり、衝動性を自制できたりするようになります。
順序を間違えなければ、何歳からでも脳は育つ
三つの脳はそれぞれ発達するタイミングが決まっており、0歳では「からだの脳」、1歳頃からは「おりこうさんの脳」、そして10歳頃から「こころの脳」が発達します。「からだの脳」は生きる上で最も大切な脳であり、0〜5歳にかけて盛んに育ちます。この脳が体内時計を動かすことで、朝は覚醒し、夜は入眠することができます。
昼間は身体活動を行うために活発に自律神経を活動させ、空腹になれば食欲を起こし、きちんと食事を摂ることができます。「からだの脳」が育たないことには、後に続く「おりこうさんの脳」も「こころの脳」も上手く育たないため、脳全体の土台部分といえます。
この「からだの脳」を育てるために必要なのが、規則正しい生活と十分な睡眠時間です。幼少期はとにかくよく食べ、よく動き、よく眠ることで「からだの脳」を育てることが何よりも大切です。
もし、脳育ての順番が間違っていたことに気づいても、慌てる必要はありません。脳は何歳からでもつくり直すことが可能です。人間の脳内には、情報処理を行う神経細胞・ニューロンが通常150億〜200億個あると言われています。このニューロンが複雑に結びつき、情報伝達を行うことで脳は発達します。
成人期には約100億個の脳細胞がつながりますが、残りの50億〜100億個の脳細胞はつながらずに残り、死ぬまでつながりが増え続けることが脳科学の研究から明らかになっています。このつながりを増やすことで、何歳からでも脳を育てることは可能です。
特に発達途中である子どもの脳は「可塑性」といって、とても柔軟性が高く、新しい刺激によっていくらでも変化させることができます。ですから、順番を間違えていると思ったら、まずは規則正しい生活を心がけ、「からだの脳」づくりから始めてみましょう。