最後発として市場に参入し、No.1になる異例
なぜ、当時の投資家はGoogleへの投資に魅力を感じなかったのでしょうか?
理由は明白です。それは彼らのビジョンに「顧客や市場という概念が含まれていなかったから」です。「世界中の情報を整理して情報格差をなくす」というのは非常に美しい社会ビジョンではありますが、では、それを望んでいる顧客がどの程度いるのか?
繰り返しますが、当時の人々のほとんどは既存の検索エンジンに対して大きな不満を感じていなかったのです。顧客がさしたる不満を抱いていない市場において、しかも複数の検索エンジンがレッドオーシャンの様相でしのぎを削っている中、大型の設備投資を伴う検索エンジン・ビジネスに投資して最後発として新規参入するという意思決定を合理化することは非常に難しかったでしょう。
古典的なマーケティングのセオリーでは、新規事業を策定する際、まずはターゲット顧客を設定し、彼らの「満たされていない欲求」を特定するところからプランニングをスタートすることを定石として教えています。
定石外れのアプローチで大成功した理由
たとえば1960年代以来、ビジネススクールにおけるマーケティングの定番教科書となっているフィリップ・コトラーの『マーケティング・マネジメント』の最新版(原書版)をあらためて確認すれば、マーケティング戦略の策定は「ターゲット市場の特定」からスタートし、このターゲット市場は「企業が満たそうとするニーズを持つ顧客」を中心に「同じ欲求を満たそうとする競合企業」との関係で設定される、となっています。
このようなテキストの記述を、先述したテスラやGoogleやアップルやPatagoniaの市場参入の状況に照らし合わせてみれば、彼らがいかに戦略論やマーケティング理論の定石とは異なる思考様式でスタートしているかということがよくわかると思います。
何といっても、テスラやGoogleが満たそうとするウォンツやニーズを抱えている顧客は、市場参入時点で存在しなかったのですから。しかし、この定石外れのアプローチで事業をスタートした企業が、今日の社会において大きな存在感を放っているのです。
これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。それは、「市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。一般的に、マーケティングやデザイン思考では「市場に存在する問題を見つける」ことがプランニングの初期段階で重視されますが、これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。