家庭で話さない言語を喋る事例は海外でも

前書でとりあつかった問題に出された質問・疑問に対してなんとか整理が出来たとおもったところで次々に寄せられる謎。

これらをまとめて『自閉症は津軽弁を話さない リターンズ』(福村出版)として上梓しました。そして今回、角川ソフィア文庫から文庫として出版されます。その本の最後に、この謎解きの旅は続きそうだと書きました。これは間違っていなかったようです。

実は、アイスランドの自閉スペクトラム症コミュニティでは「自閉スペクトラム症の若い人はアイスランド語よりも英語を好んで話す」というコンセンサスが高まっており、北アフリカの自閉スペクトラム症に関わる実践家は学齢前や学齢初期であるにもかかわらず(テレビ等でしか聞くことのない)現代標準アラビア語を顕著に習得している自閉スペクトラム症の子どもに頻繁に出会うそうです。

日本の津軽、アイスランド、北アフリカ(アラビア語圏)でみられる現象に共通性はあるのでしょうか。アイスランド、北アフリカの報告者は、自閉スペクトラム症の子どもたちがメディアから言語習得している可能性を指摘しています。上述したように私もその可能性を考えています。

言語発達研究では「ありえない」が…

しかし、メディアからの言語習得という解釈には、言語研究者の一部から強い反論があります。言語発達研究は、子どもがことばを学ぶには生身の人間の表情やリアクションを含めたコミュニケーションが重要であることを示しています。「定説に反する。ありえない」ということです。

私は、主に英語を話すようになったアイスランドの自閉スペクトラム症当事者および家族に実際にインタビューをしました。小さい頃はアイスランド語を話していたが、興味をもったメディアコンテンツの視聴を通じて英語を習得し、家庭でもほとんど英語で話しているということです。

また、共同研究者とともに、幼児期から英語しか話さないとされた日本在住の自閉スペクトラム症の子どもに小学校入学まで関わってきました。やはりメディアの影響がうかがえました。

これらの背景に、近年のメディアコンテンツの質・量の豊かさ、メディア機器の操作性・応答性の向上、スクリーンタイムなどの問題が存在するように見えます。

現場から上がってくる報告と実証的とされた研究結果の相違。この2つを融合する解釈はあるのでしょうか。