ドイツで広がる「EV化100%」に対する不信感

他方で電気自動車(EV)シフトにも、そうした「揺り戻し」の動きが生じている。

欧州連合(EU)は2035年までに、新車の供給を全てゼロエミッション車(ZEV)に限定する方針が掲げている。ZEVには電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)などが含まれるが、EUは実態としてBEV、つまりEVの普及を進めようと注力している。

2035年に新車の100%をZEVにするための法案は、3月7日に閣僚理事会(EU各国の閣僚から構成される政策調整機関)で承認される予定だったが、それにドイツのフォルカー・ウィッシング運輸・デジタル相が待ったをかけた。ZEVの中にe-fuelで動く内燃機関(ICE)車を含めない限り、ドイツは法案に賛成しないと表明したのである。

e-fuelとは再エネ由来の水素を用いた合成燃料のことであり、燃焼時に二酸化炭素を排出するが、生産時に二酸化炭素を使用するため、その両者を差し引くことで二酸化炭素の排出量が「実質ゼロ」となる。コストはかかるが、従来型のガソリン車やディーゼル車などで利用できる利点がある。その技術に磨きをかけているのが、当のドイツだ。

閣内不一致の状況になっている…

ドイツでは、オラフ・ショルツ連立政権の下、環境政党である「緑の党」がEVシフトを奨励している。

写真=dpa/時事通信フォト
ドイツのアンナレーナ・ベアボック外務大臣(写真右、同盟90/緑の党)と、オラフ・ショルツ首相(写真左、SPD)による、連邦外務省訪問後の報道声明。

反面で、ウィッシング運輸が所属する自民党は、環境対策そのものは否定しないが、産業界への影響を考慮し、慎重な立場である。いわば閣内不一致の状況であったわけだが、そのいびつな状況が、ここに来てハレーションを起こしたようだ。

問題は、ドイツのウィッシング運輸の姿勢に賛同する国々が7カ国に達したことだ。具体的にはドイツに加えて、イタリア、ポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニア、スロベニアの7カ国であり、それぞれが自動車産業に強みを持つ国である。

もはや「一部の国」といえないほど反発が広がる中で、ロイター通信が伝えたところによると、欧州委員会は結局、2035年以降もe-fuelのみで動くICE車の新車供給を容認する方針に転換したようだ。

急速な脱炭素シフトへの反発が広がる

このように、環境対策に対して疑義を呈する動きが、ヨーロッパ各国で着実に広がっている。そうした立場に立つ有権者や政治家に共通して指摘できることは、環境対策の実施そのものには賛成しているものの、環境政党が推進しようとする政策のスピードがあまりに速すぎることに対して、反発を強めているということである。

昨年2月に生じたロシアのウクライナ侵攻でヨーロッパがエネルギー不足に陥ったことも、環境対策のスピードの在り方に対する有権者の意識の変化につながったのではないだろうか。

環境政党は経済安全保障にもかなうとして、再エネの一段の普及に向けアクセルを踏んだが、有権者が望むものは安価で安定したエネルギーの供給に他ならない。