パワーカップルの生態。一体何者なのだ

パワーカップルとは何か。「夫と妻の収入を合算した世帯年収が1000万円以上」(三菱総合研究所)、「夫婦ともに年収700万円超」(ニッセイ基礎研究所)と定義はさまざまだが、おおむね夫婦の合算年収が1000万円近くの購買力旺盛な世帯だと考えてよい。

1992年、国は「年収の5倍で住宅を」というスローガンを打ち出した。80年代末から90年代初頭、地価は高騰し住宅取得倍率(住宅取得金額が年収の何倍になるか)は、都心部で10倍以上に跳ね上がった。年収が500万でも、長期ローンを組んで5000万円の物件を買った時代があった。一般に取得倍率が5を超えると、家計はローンの返済に圧迫され、「適正な」消費生活に支障を来す。

ローン返済に汲々きゅうきゅうとし、それ以外の支出を厳密に抑える耐乏生活を行わないと、とてもではないが住宅取得はままならなかった。だから国は当時、無理のない取得倍率5をスローガンとしたのである。バブル崩壊以後、90年代の中盤をへてゼロ年代に至るまで、地価の下落で取得倍率は5に限りなく近づいていった(――また、優良な中古住宅が市場に出回ったことも要因である――)。しかし今度はデフレによる長期不況で世帯年収が頭打ちから減少傾向になると、総所得の減少で取得倍率はじわじわとだが上がりつつある。

パワーカップルのタワマン購入、自殺に等しい

そんな中でマンション業界は、夫の年収だけではなく妻の年収をも合算した世帯所得を基礎に、世帯所得の5倍程度でようやく手が届く範囲のタワマンの売り出し戦略としてパワーカップルに照準を当てた。実際に銀行の住宅ローンでは、場合にもよるが年収の7~8倍程度まで融資を受け付ける例が多い。となると、もはやタワマンの主力となったパワーカップルの世帯年収が1000万円だとすると、おおむね7000万~8000万円の物件まで融資を受けられ、購入の射程に入ってくる。7000万円だと都内でも場所によるが敷地面積20坪程度の新築一戸建てが十分手に入るし、中古物件だとより安価になるが、どうせ長期ローンを組んで同じマンションを買うならタワマンのほうがいい、ということでタワマンブームは続いてきた、というわけだ。事実、東京都内の新築タワマン相場はおおむね5000万~1億円である。

しかしすでに述べたように、取得倍率が5ないし7を超える住宅を、長期ローンを組み購入する行為は、自殺行為に等しい。住宅ローン返済費以外のあらゆる支出は耐乏を余儀なくされるのである。パワーカップルの定義は、前述した世帯年収だけではない。旺盛な購買意欲の存在もその定義入ってくる。だから室内の家具・家電にも最新のものを求め、子供の教育にも余念がない。