写真=小川聡
真冬にもかかわらず、緑が保たれている「金沢寺町 宝勝寺ふれあいパーク霊苑」。とても霊園には見えない。

全員が反対した、霊園での葬儀

もう1つ、私が霊園に持ち込んだものがある。それは、葬儀だ。葬儀は、自宅か葬儀屋で行うのが常識で、霊園で行うことはなかったのだ。ある日、私が「霊園で葬儀をやってみたらどうだろう」と、幹部が集まる会で提案した。幹部社員らは「霊園で葬儀や法要をやる人なんかいない」という常識に縛られていて、全員が反対した。おまけに銀行も反対した。「それは本業じゃない」と。

四面楚歌ではあったが、葬儀のサービスを始めてみると、瞬く間に予約で埋まった。草花があふれる花葬儀をメインにしたのだ。お客様が知っている葬儀とは美しさのレベルがまるで違っている。既存のお客様に葬儀をご案内したら、オープンして少しの間に2000人が見学に来られた。世の中にない新しい感性の葬儀だから、「すごくいい雰囲気ですね」と多くのお客様が言ってくださった。

どうすれば、面白いアイデアが浮かぶのか

どうすれば、そんな面白いアイデアが浮かぶのか――。そう聞かれることがある。強いて言えば、私の場合、アイデアが浮かびやすい要因がいくつかあると思う。

1つは、知人や友人、妻から多くの影響を受けている。私の性格なのかもしれないが、わかったふりはしない。わからないときはわからないと言い、もっと知りたくなったら、何度でも人に会いに行き、教えてもらう。たとえば、妻は花の知識、それを使うセンスに長けている。彼女のアレンジメントを見るたび、私のなかで何かが生まれてくる。1つは、美しいものをたくさん見ること。たとえば、オペラを観に行くと「この美しい演出をお通夜に応用したらお客様はどう感じてくださるか」と考える。いずれにしても、何をしているときでも、仕事と結び付けて考えている。経営者の皆様は同じ感覚を持っていると思うが、私の中には「仕事の時間」「遊び時間」という区別がまるでない。何をしていても、根底ではいつも仕事のこと、もっと言えば、お客様のことを考えている。

また、インスピレーションを受けたら、必ず試すことにしている。幾度となく結婚式に出させてもらったが、いつも気持ちが動く。結婚式には、出席者を感動させる演出が数々あるのに、なぜ葬儀にはないのか。結婚式の演出の1つに、照明のコントロールがある。また、高いグレードのお花を使ったディスプレーがある。それらを葬儀に取り入れてみたらどうなるか、と考えた。すぐに実行に移すと、ご遺族が非常に喜んでくださった。

オリジナルに、自分の感性を加える

「世の中のすべては模倣だ」と言われる。たしかに、ビジネスアイデアをゼロから創造できる人など、そうはいない。しかし、ビジネスアイデアを丸ごとパクるのは無理だと思っている。私がつくったガーデンニング霊園を、何社もパクろうとしたが、本質的なところをパクれた霊園は、これまでに1つもなかった。なぜか。

ガーデニング霊園も、霊園での葬儀も、元からあった商品・サービスに、私がこれまで見聞きしてきたものを組み合わせたものだが、いずれも私の感性が入っているからだ。ビジネスパーソンはもっと「自分の感性」を信じ、大切にしたほうがいいと思う。美しいと思えないものを「美しい」と言う必要はない。そこの一線をかんたんに譲ってしまう人とは、私は仕事をしたくない。

そうやって、自分の感性を追求する性質だから、私は儲けるのがうまくない。ロボットをフル活用した回転寿司のようなビジネスモデルが効率的とわかっていても、自分で握る鮨屋しかできないのだ。70歳を超えたが、自分の感性が業界の常識とは違う方向に働いているうちは、まだまだやれると思っている。

(構成=荒川 龍 写真=小川 聡)
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