スイスの霊園はシンプルで美しかったが、何かが足りなかった。中本さんはそれが、花だと気づいた。
写真=istock/tjalex
スイスの霊園はシンプルで美しかったが、何かが足りなかった。中本さんはそれが、花だと気づいた。

なんて、美しい霊園なんだ

欧州視察ツアーでは、まず、イタリア・ローマに入った。世界的彫刻家・ミケランジェロの国だけあって、彫刻を施した墓石に衝撃を受けた。墓石というより芸術品だ。そのときに撮影した写真を眺めると、今でもうっとりしてしまう。自分が売っている墓石とレベルが違いすぎて、無力感だけが募った。

「高いお金を払って自信を失うなんて。来なきゃよかった」と落胆して、スイスに移動した。スイスの墓石は、シンプルだった。御影石の土台に、長方形のプレートを被せた墓石は、パッと見は日本のものと変わらなかったが、得も言われぬ上品さをまとっていた。

墓地全体の雰囲気も、日本とはまるで違う。緑が多く、まるで公園のようだった。イタリアでは打ちのめされたが、スイスでは「これなら私にも作れるかもしれない」と心が躍った。日本で、この美しい霊園を再現するイメージがすぐに浮かんだ。

誰ともイメージを共有できない

帰国して、石材組合の人たちに「スイスの霊園が公園のように美しかった。一緒に作りましょう」と話すと、「ムリムリ」と取り合ってもらえなかった。というのも、日本の霊園では、植栽しないのが常識だったからだ。理由は管理が大変になるから。草が生えると除草にコストがかかるため、コンクリートで固めたり、砂利を敷いたりする。それでも雑草の勢いは止められず、多くの霊園がうっそうとしていて、「霊園=暗い」というイメージが定着していた。

結局、美しい霊園の実現に向けて、私一人で動くこととなった。霊園そのものをつくるノウハウもガーデンニングの経験もなかった。あるのは、イメージだけだった。

美しいが、何かが足りない

スイスの霊園を目標に動き出したが、何かが足りないと感じていた。しばらくして、それが「花」だと気づいた。お墓参りに来られる方の多くは、花を手向けて帰られる。しかし、花はすぐに枯れてしまう。いっそのこと、霊園自体にいつも美しい花が咲いていたらどうだろうか。ご家族もうれしいだろうし、眠る人をいつも癒やしてくれるに違いない。花を植えるなら、バラがいい。清楚せいそであでやかで華やぎもあるからだ。

欧州視察から9年を経て、千葉県佐倉市にイメージ通りの霊園「佐倉ふれあいパーク」をオープンさせた。花が咲き乱れるガーデニング霊園として、話題になり、花柄やローマ字書きの名前が彫刻された墓石も評判で、とにかくよく売れた。背伸びして投資した10億円は、わずか3年で回収でき、銀行が驚いた。