私が語学に興味を持った背景には、家庭環境の影響があります。祖父の小池喜兵衛は、明治末期にアメリカ北西部のシアトルでビジネスを学んだあと、神戸で貿易会社を起業しました。父の勇二郎も貿易会社を経営していたので、家族の意識は常に海外を向いていました。その影響もあって、小さい頃から「英語で身を立てたい」と考えていました。

戦前のシアトルで商売を学んだ祖父・小池喜兵衛 
小池百合子都知事の祖父・小池喜兵衛氏は、明治末期に、当時最先端のビジネスを学ぶため、アメリカ北西部のシアトルに渡っている。帰国後、神戸で貿易会社を起業。父の勇二郎氏も貿易会社を経営しており、「家族の意識は常に海外を向いていた」という。

高校ではESS(英語研究会)に入り、文化祭では毎年、オリジナルの英語劇をプロデュースしていました。アポロ11号の月面着陸をテーマに選び、体操服などを活用して宇宙服らしきものを作りました。「ガガー」「ピピー」という交信音も流し、宇宙と地上とのやりとりを英語で再現しました。なかなか本格的だったと思います(笑)。

その一方、アポロ11号の月面着陸のテレビ中継をみたとき、同時通訳のレベルの高さに圧倒されました。西山千さん、村松増美さん、鳥飼玖美子さんといった日本における同時通訳の先駆けの方々が、まるでシナリオがあるかのように専門用語を見事に訳していくのです。英語のプロになる道のりの遠さを実感して、英語で身を立てることは諦めました。

ただ、語学の道に進みたいと考えていたため、英語以外の言語を模索しました。中国語や韓国語は、日本に話者がたくさんいます。フランス語やドイツ語も、人気は高い。そこで、現時点ではあまり注目されていないが、今後伸びそうな言語は何か──。そんなときに国際連合の公用語にアラビア語が加わるというニュースに触れ、ひらめいたのです。「アラビア語の通訳者になろう」と。関西学院大学を中退し、エジプトのカイロ大学に留学しました。

アラビア語を学んだことは、英語の上達にも役立ちました。日本語で書かれたアラビア語の本格的な辞書はありません。わからないアラビア語は英語の辞書で調べるしかないのです。そこでさらに英日辞書を引きます。違う言語を学ぶことは、世界をみる次元を増やすことになります。日本語だけでは、日本の中の情報しか入ってきません。しかし日本の外では凄いスピードで変化が起きています。

英語が苦手だと、結局、「見ざる、言わざる、聞かざる」状態になります。それはビジネスパーソンにとって、重大な機会損失です。次回は私の英語の学び方についてお教えします。ぜひ参考にしてください。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦)
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